休眠預金活用 ぬぐえぬ不信感

年内に運営団体選定へ


 預金者本人と連絡が取れなくなって10年以上が経つ「休眠預金」を福祉や地方活性化に活用する取り組みについて、資金分配を監督する特定団体が年内には選定される。新たな取り組みに期待する声もある一方で、預金という個人の財産を流用するにもかかわらず、分配する仕組みの透明性や公平性の確保を疑問視する声が絶えない。年間700億円超発生するとも言われる休眠預金はどこへ流れ、どのように使われるのか。また自分の資産が休眠預金として知らない間に使われてしまう可能性はないのだろうか。


パブコメすら読まずに審議終了

 「一般から公募したパブリックコメントがあれだけ集まったにもかかわらず、審議が10分で終わってしまって、委員であるわれわれも読む時間がなかったことについて、説明が必要だ」

 

 「これまでに出た他の審議会では、パブコメで意見が出たので、こういう風にしますという議論を1回はした。今回それがなかったのは、非常に問題だ」

 

 今年5月に行われた休眠預金等活用審議会では、出席した複数の委員からこうした発言が次々と飛び出した。預金者本人と連絡が取れないまま長期間放置された「休眠預金」の有効活用を検討する会合では、議論の欠如や透明性確保の取り組み不足に対する指摘が相次いだ。これらの発言に対して審議会の会長は、「ある程度努力はしたつもりだが、不十分であるということで、また今後、反映させていただきたい」とだけ返答した。

 

 委員からも懸念が出るほどの〝迅速〞な議論を経て、休眠預金を活用する仕組みは急速に構築されつつある。2016年に「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」が成立し、今年3月に基本方針が決定した。10月からは資金の分配団体を一括して監督する「指定活用団体」を決める公募申請の受け付けが開始され、年内には決定、来年中に業務を開始する予定だ。

 

年間700億円の行方は?

 休眠預金は、金融機関が預かって10年以上出入金の動きがなく、口座の所有者にも連絡が取れない預金のことを言う。毎年700億円超発生し、払い戻しを考慮しても年間約500億円が積み残され、その多くは預金者が亡くなるなどして引き出されなくなるケースだという。

 

 休眠預金の民間活用を巡っては、東日本大震災で休眠預金の復興資金への利用が模索されたことをきっかけに議論がスタートし、菅義偉官房長官も名を連ねる超党派の議連などの後押しを受け、16年の法成立へ至った経緯がある。放置しておけば眠ったままの預金を民間に投資する取り組みは、安倍政権の掲げる「貯蓄から投資へ」の流れの一環と言えなくもないだろう。

 

 実際に制度がスタートすると、金融機関が現在管理している休眠口座は政府や日銀が出資する預金保険機構に移管されることになる。その後、休眠預金の分配や、分配に関する事業計画を策定する「指定活用団体」へ交付され、この「指定活用団体」が実際に休眠預金をNPOに渡す分配団体を選び、実際に資金が渡るという手順を踏むことになる。

 

 休眠預金の福祉や教育分野への利活用自体は、海外ではすでに複数の国で行われている取り組みで、珍しいことではない。しかし国内で進もうとしている休眠預金活用の取り組みに対しては、預金の流用や分配に当たっての透明性や公平性を不安視する声が絶えない。

 

「市民の声がまったく反映されない制度」

 とくに「指定活用団体」は、資金の配分に関して大きな裁量を持つにもかかわらず活動の信頼性を担保する仕組みが判然とせず、これだけ公益的な活動を行う団体でありながら、公益法人に比べて規制が少なく行政庁の監督を受けない一般財団法人であるなど、透明性確保に向けた取り組みが万全とは言えない現状がある。

 

 この点に関しては関係者からも不安視する意見が相次いでおり、7月には全国のNPO支援組織が主催した緊急フォーラムが東京で開かれ、約100人が集まり制度の問題点を語った。「指定活用団体に多くの裁量や権限が集中する、市民の声がまったく反映されない制度になってしまった」と制度の見直しを求める意見が多数出されたほか、審議会のパブコメに対する説明不足や、資金の助成を受ける条件が「社会的インパクト」や「成果の可視化」に偏り、活動を数字や規模のみで評価する姿勢に対して懸念が表明されたという。

 

 こうした不安の声が顧みられることもなく休眠預金の活用は来年にもスタートしようとしている。

 

 一方、一預金者として、自分の預金が知らない間に流用されて資産を失う可能性があるのかと言えば、答えは原則的には「NO」だ。休眠預金の対象となる口座には長期間放置することの多い定期預金や金銭信託も含まれるが、入出金や残高照会などの取引が行われてから9年以上が経つと公告が行われ、さらに1万円以上の残高があれば登録された住所へ通知が届く。この時点で気付いて何らかの取引を行えば休眠預金とはならない。

 

 また住所変更などで通知が届かずに10年が経過し、休眠預金として民間流用された後でも、口座の存在に気付き、本人確認書類などをそろえて手続きをすれば、預金を引き出すことはいつでも可能だ。

 

 もっとも一度休眠預金として移管されてしまうと手続きが必要で、煩雑なことに変わりはない。休眠預金の使途に対する不安がぬぐえないまま、自分の資産が使われてしまうのは釈然としない。ならば、そもそも休眠預金とならないように資産管理を行いたい。

(2018/11/07更新)