コロナ後の土地対策

相続税にも影響大


 国土交通省が公表した公示地価では、地方圏がバブル期以来28年ぶりとなるプラスに転じるなど、昨年から引き続き好調な水準を記録した。しかし今回の地価には、2月以降に国内で流行している新型コロナウイルスの影響が反映されていない。未曾有の経済危機である〝コロナショック〞によって、今後、地価が下がっていく可能性は十分にある。過去に例のない感染症の流行による地価下落に対して、資産家はどのような相続対策を講じるべきだろうか。


 国交省が公表した2020年度の公示地価は、全国平均で前年比1・4%のプラスとなり、5年連続で上昇した。伸び続ける三大都市圏と地方中枢都市だけでなく、それ以外の地方圏も28年ぶりにプラスに転じるなど、近年続いてきた上昇トレンドが地方にも波及しつつある形だ。

 

 しかし着実に回復している地価傾向とは裏腹に、専門家の表情は明るくない。「ここ数年は上がっていく公示地価が発表されるのが楽しみだったが、今年は喜ぶ心境じゃない。新型コロナウイルスの影響で、今後地価がどこまで下がるのかと思うと、暗い気持ちにならざるを得ない」(都内の不動産業者)。

 

 毎年3月に発表される公示地価は、その年の1月1日時点での土地の価格を示したものだ。しかし新型コロナウイルスが国内で流行し始めたのは2月に入ってからだった。つまり、今回発表された高水準の公示地価には、新型コロナウイルスの影響がまったく反映されていないことになる。

 

 新型コロナウイルスが流行り始めてからというもの、街からはまず外国人観光客の姿が消え、そして国内での感染者が増えるに伴って日本人の往来も減った。観光地は閑古鳥が鳴き、飲食店の客足は激減している。不動産投資市場への影響も大きく、REIT(不動産投資信託)の指数は3月17日に一時17%安と急落し、1カ月で半分にまで落ち込んだ。

 

 そもそも不動産に限らず、株価も世界的に下落し、個人消費も激減している。すでに10を超える国内企業が新型コロナウイルスの影響を理由に倒産した状況下で、今後、景気がさらに冷え込むのは確実だ。これまで安倍政権下での株高基調を背景に地価が回復してきたことを思えば、コロナショックによって景気が落ち込めば地価も下がることが予想される。

 

公示価格は上がったが…

 近年で、地価に大きな打撃を与えた天災といえば、なんといっても2011年の東日本大震災だろう。震災の後には、津波や液状化の被害を受けたエリアの地価が、半年で10%以上下落した。

 

 新型コロナウイルスが経済に与える影響は東日本大震災をしのぐとも言われるが、震災と大きく異なるのは、ウイルスは土地そのものにダメージを与える災害ではないということだ。震災で被害を受けた地域では、建物が倒壊し、津波で多くの家々が流された。そのため震災後は津波リスクが高い沿岸部で特に地価が下落し、その傾向は今日まで続いている。

 

 一方の新型コロナウイルスは、いまだ終息の時期が見えないとはいえ、感染者の発生した土地に今後数年にわたって影響を残すというものではない。そのため、地価に与える影響も震災ほど直接的ではなく、また後を引くものではないかもしれない。

 

 しかし、すでにコロナショックが数カ月に及び、現時点でも経済に深刻な打撃を与えていることを思えば、やはり地価に与える影響も大きいと言わざるを得ないだろう。不動産オーナーは、出口戦略を含めて、〝コロナ後〞を見据えた土地対策を練り直す必要がある。

 

 また資産家にとって懸念されるのが、今後起こり得る相続への影響だ。3月に公表される公示地価は様々な土地評価の基礎となるもので、7月に発表される相続税路線価は、公示地価のおおよそ80%程度になるといわれる。そして相続税路線価は、相続財産としての土地を評価する算定基礎となる数値だ。

 

 仮に、今回の公示地価を基に相続税路線価が決定されたとすると、2月以降のコロナショックによって土地の実勢価格は大きく下がっているにもかかわらず、路線価では〝コロナ前〞の評価で高止まりしているということも考えられる。

 

 同様の問題は11年の東日本大震災の際にも起きていて、震災発生後に公示地価が公表されたが、その評価は1月1日時点のものだったため、実際には土地が使い物にならなくても評価上では震災前の価値が適用されるという事態が生じた。そこで国は、被災地については「被災後の時価」で判定するという特例を講じることによって、被災地の土地オーナーたちを救済している。しかし前述のとおり、新型コロナウイルスは震災ほど直接的に土地に損害を与える災害ではない。そのため、大震災と同じような救済策が講じられない可能性は十分にある。

 

評価の〝高止まり〟も

 参考として、地価公示後の土地の下落を巡って納税者が「下落後の時価で評価すべき」として国税当局と争った事例を紹介する。この時は、納税者が訴えた土地は公示後に22・4%下落していたというが、それに対して国税不服審判所は、「1年間の地価変動に耐え得ることなどを考慮して公示地価の80%程度で評定している」と訴えを退けている。

 

 もちろん地価下落がよほど著しいなら何らかの措置が講じられるかもしれないが、あくまで希望的観測に過ぎない。現実には、新型コロナウイルスの影響によって事業活動も苦しいなかで、高止まりした相続税を納めなければならない恐れは十分にある。

 

 地価の下落が予想される状況で土地をどう処分・利用するかという対策に加えて、不測の事態が起きた場合に備えて、納税資金対策も今一度考えておく必要があるだろう。

 

 新型コロナウイルスの感染が長引けば経済に与える影響はそれだけ大きくなり、終息後の景気の回復も難しくなる。そうなればここまで上昇トレンドにあった地価が、一時的でない下落傾向に転じる可能性もあり得る。先の見えないなかで、下落リスクを考慮した土地対策が求められている。

(2020/04/28更新)