【サンクコスト効果】 (2017年7月号)


時間を何とかやりくりして映画館へ足を運んだというのに、前評判ほど面白くない。さて、途中で席を立って残りの時間を有効に使うか、それとも最後まで見続けるか▼この場合、多くのひとが「お金がもったいないから」という理由で見続けるほうを選ぶのだという。結果として、お金も時間も損をしてしまうことになる▼こうした行動を指す「サンクコスト効果」という言葉がある。サンクコストは「埋没費用」と訳される。事業に投下した資金や労力のうち、その事業の撤退・縮小・中止を決めても戻ってこないものをいう▼「ここまでお金と時間と労力をかけて進めてきたのだから、いまさら後戻りはできない」として、強引に継続したプロジェクトが最終的に失敗したら、途中で打ち切った場合よりも大きな損失となる。築地市場の豊洲への移転問題、東京五輪の費用負担、獣医学部の新設などなど。計画の推進者は「いまさら引き返せない」と思い込んでいることだろう▼しかし、そこには巨額の税金がつぎ込まれている。成功する、安全だ、というのならば、その具体的・客観的な根拠を示すべきだろう▼ビジネスも同じ。投下した資金が大きいと簡単には事業を中止できなくなる。継続すれば費用負担はさらに増す……。社長さんには、引き返せなくなる前に立ち止り、賢明な判断を下す勇気が求められる。