複雑すぎる相続税額の計算方法

割って、掛けて、足して、割って


 1億円の遺産を兄弟2人が4千万円と6千万円でそれぞれ相続したとすると、それぞれに課される相続税の税額も、だいたい比率として4:6になる――。

 

 この認識はおおむね間違ってはいないが、具体的な相続税の計算は、かなり複雑で大変なものだ。遺産総額に対してどのように相続税を課し、取り分に応じてどう按分するかは、複数の方式がある。

 

 相続税が初めて導入されたのは明治38年のことだが、その頃は遺産の総額に応じて税率をかける単純な「遺産課税方式」だった。当時の相続は、長男が遺産の全てを取得する「家督相続」が一般的だったためだ。遺産にかけた税金がそのまま1人の相続人の税負担となるというシンプルさが当時は成立したわけだ。

 

 戦後、日本の相続税の算定方法は「遺産取得課税方式」に改められた。それぞれの相続人が実際にどれだけの財産を相続したかで税率を決める方法で、多く取得した人にはその分高税率がかかる。しかしこの方式では、例えば10 億円を2人で分ける場合に5億円ずつ分割するのと、8億円と2億円で分割する場合とでは、相続税の合計額が変わってしまい、税負担を抑えるための仮装分割を助長してしまうという問題が生じた。

 

 結局、このやり方は数年で中止となり、それ以降、現在に至るまで「法定相続分課税方式」が採用されている。この方式では、①まず相続財産の価額の合計から法定相続人の数に応じた基礎控除分を控除し、②それを全相続人が法定相続分に応じて取得したものとして分割して税率をかける。③その税額を合計して相続税の総額を求め、④最後に実際に取得した割合に応じて税負担を按分する――。

 

 遺産総額と相続人の数によって相続税の税率を計算するため、税率を低くするための仮装分割を防ぐことができる。また取得額に応じて税負担を按分するため、「応益負担」の原則にもかなう。一見シンプルに思える相続税の税額は、これほど細かい計算によって成り立っているわけだ。

 

 もっとも、この「法定相続分課税方式」にも問題はある。実際に取得した額に差があっても税率が変わらず相続人の間の公平性に欠けることや、相続人が同じ額を取得していても遺産総額次第で税額が変わるという問題を解消できているとは言えない点だ。税の専門家からは、かつての「遺産取得課税方式」に戻すべきとの意見も出ているようだ。(2019/06/19)