持株会社で相続対策

複数のリスクも存在


 相続対策として「持株会社」を活用するケースがある。後継者が代表となって持株会社を設立し、金融機関から融資を受け、その資金で先代経営者から事業会社の株式を購入するという手法だ。

 

 その後、持株会社(後継者)は事業会社の株主として毎年多額の配当を受け取り、それを原資として銀行に返済するという流れを踏む。この手法のメリットは、株式を売却した既存株主に譲渡所得税がかかるなどの税負担は発生するものの、後継者には自己資金の負担がなく、持株会社を通じて自社株式を間接的に所有できる点だ。

 

 しかし、持株会社方式には複数のリスクも存在する。まず、事業会社の業績が悪くなると、予定通りに配当を受け取れなくなる可能性がある。会社法には「財源規制」というルールがあり、会社が支払う配当金は利益の額によって上限が定められている。

 

 さらに今後、受取配当金の益金不算入ルールが見直される可能性がある。事業会社から持株会社への配当金は税法上の益金に算入されないという法人税法23条の規定があるため、持株会社は配当金の全額を返済原資に充当することができる。しかし、返済期間中に制度が見直され、もし益金不算入が制限されることとなれば、予定していた返済に支障が生じる可能性も否定できない。

 

 また、後継者の相続税負担も増える。先代経営者が自分の所有する株式を持株会社に売却すれば、相続財産は減るものの、株式を現金に換えたことで、自社株には認められる評価減の特例などが使えなくなる。相続発生までに何らかの対策を併せて講じないと、現金財産として額面通りに評価されてしまい、後継者にかかる相続税負担が大きく増すこととなってしまう。

 

 持株会社方式を提案してくるのは、多くの場合、事業会社のメインバンクなど金融機関だ。その理由は、相続対策を理由に巨額の融資ができるからだ。持株会社は、自社株を引き受けるための原資がない後継者にとってメリットがあるのは確かだが、リスクの存在も認識しておきたい。(2021/05/10)