社長さんの認知症リスクに備える保険

貯蓄性はないが掛金は全額損金


 中小企業経営者が認知症になると会社は多くのリスクに直面する。例えば何らかの契約に社長がハンコを押しても、その時点で社長が認知症を発症して意思能力がないと判断されると、契約は認められず無効になってしまう可能性がある。

 

 また中小企業への融資は銀行と社長の信頼関係で成り立っていることがほとんどだから、社長が認知症になれば運転資金の融資が受けられなくなり、資金繰りに困るかもしれない。さらに認知症になった社長は議決権を行使できなくなるため、社長が自社株の大半を持っているようなケースだと議決に必要な定数を満たせず、総会での議決が必要な経営判断すべてに支障をきたしてしまう。

 

 認知症を発症した後でも、家庭裁判所を通して法定後見人を付けるなどの対策は取れるが、事後の対応には労力がかかり、その後の財産管理も硬直的にならざるを得ない。安定した事業継続や資産承継のためには、発症前に信託を設定しておいたり、自社株に認知症発症を想定した制限を付けたりするなどの対策が重要だ。

 

 認知症対策として近年存在感を増しつつあるのが、認知症にスポットを当てた「認知症保険」だ。内容は保険会社ごとに異なるが、おおむね認知症と判断されれば一時金、あるいは年金形式で、治療費やその後の介護費用を受け取れるといった仕組みとなっている。

 

 認知症保険については法人契約が可能なものもあり、会社が経営者個人に保険をかけ、受取人を会社にする形での契約も増えているという。企業が加入する生命保険といえば、高い貯蓄性や解約返戻金による内部留保の蓄積といった税務・財務面での貢献が期待されるものが多い。その点、認知症保険にも税金面での効果を期待したいところだが、残念ながら現在販売されている認知症を対象とした保険商品は返戻率がほぼゼロの掛け捨てタイプが主流で貯蓄性はないといえる。終身保険の特約で認知症保障が付いているタイプなど、一部に例外はあるものの、原則として貯蓄型の保険商品のような役割は期待できないといえるだろう。

 

 ただし認知症保険に税金面でのメリットがまったくないわけでもない。他の掛け捨てタイプの商品と同様に、認知症保険は保険料を会社の損金として経費化できる。保険本来の目的である「経営者の認知症リスク」への備えとして機能しながら、会社の利益を圧縮することが可能だ。(2020/06/10)