銀行カードローンは異常事態

貸出残高5兆円突破

銀行とサラ金は一心同体


 銀行カードローンの利用額が激増している。2012年に3兆6600億円だった貸付残高は4年で1・5倍の5兆4377億円にまで膨らみ、貸金業者による〝サラ金〞の実に2倍以上となっている。5兆円といえば、年間の国家税収の1割にあたる額であり、利用者の需要に応じた結果とはいえ、とても真っ当な金融行政の姿とはいえない。日本弁護士連合会では、かつての多重債務化を招くおそれが十分にあると警鐘を鳴らし、この異常な事態を打開すべく規制を求めている。銀行にとっては低金利時代の極めてオイシイ商品だが、自主規制に踏み切らざるを得ない状況にまでなっているようだ。


 「24時間いつでもお申し込みOK」「WEB完結申込」「コンビニATM手数料0円」――。申し込みが簡単で、利便性の良さを売りに銀行各社のカードローンの貸付残高が急増している。金利は貸付業者による個人向け融資(サラリーマン金融)が3〜18%であるのに対し、1・8〜15%と若干低く抑えられている。しかし、一般的な事業者ローンなどに比べて決して「低い」と言えるものではない。

 

 銀行カードローンの利用は2013年から急激に伸びてきたが、これにはその前年に発足した第二次安倍政権による経済政策「アベノミクス」が大きく関係している。アベノミクスの柱の一つである「異次元の金融緩和」により、超低利で多額の資金を集めることができるようになった銀行は、このカネを個人向けに「銀行カードローン」として売り出した。住宅ローンの金利が下がるなかで、10%もの金利を得られるカードローンは、実にオイシイ商品となっている。

 

 そして、銀行カードローンの特徴は、その規制の緩さにある。かつてサラ金は、「サラ金地獄」という言葉で象徴されたように多重債務者の自殺や一家離散が社会問題化したことから貸付限度額に「総量規制」がかけられ、現在は年収の3分の1以上は融資ができないようになっている。だが銀行カードローンは銀行法の対象であるため貸金業法の規制に引っ掛かることはない。今年に入り、一部の銀行ではサラ金と同様に貸付上限を年収の3分の1までとする自主規制に乗り出したところも出てきてはいるが、まだまだ高い上限額であることに変わりはない。この両者の法律の違いから、サラ金の貸付上限に達した人を、同じグループの銀行カードローンに紹介するシステムもしっかりできあがっている。

 

 なお、大手銀行のカードローンは、そのほとんどが旧サラ金会社を運営主体(保証会社)としている。いまや銀行とサラ金は、密な関係というよりも、一心同体ということになっている。

 

融資限度額が預金残高に見えてくる

 銀行カードローンは融資にあたって収入証明書の提出が不要なことも多く、審査が簡単で早いことなどがカード申し込みのハードルを低くしているようだ。そこで、エヌピー通信社編集部の記者が試みに大手行のカードローンに申し込んでみたところ、ただ一度だけ編集部宛に当該銀行の審査担当から存在確認の電話があったのみで、即日借り入れが可能となった。ちなみに、この記者が以前にサラ金系の融資を申し込んだときの融資上限は50万円だったが、今回は300万円までの枠が無担保で設けられた。

 

 さらに、入手したカードでATMを使って融資を受けてみると、自分の銀行預金を引き出すときと同様の手間で借金をすることができた。怖いのは、借り入れる(融資を受ける)際に、ATMのタッチパネルには「借入」や「融資」という文言はなく、通常の銀行口座と同様に「お引き出し」の項目を選択するようになっていることだ。返済にあたっては「お預け入れ」を選択することになる。借金をすることへの後ろめたさをやわらげるための細かい工夫なのだろう。

 

 当社の記者とは別の30代男性は「いつの間にか利用限度額が預金残高に見えてくる。そうではない事実に気付いたのは、残念ながら返済が滞ったときでした」と、力なく笑った。貯金に見えた男性の借金は現在200万円を超えているという。

 

 この男性のように、多額の負債を銀行カードローンで抱えてしまったケースは多く、日弁連では総量規制に関する法改正を求める会長声明を発表し、「多額債務問題の再燃を招くおそれもある」と警鐘を鳴らしている。

 

利用理由は「生活費不足」

 銀行カードローンによる多額債務者の問題は国会でも取り上げられ、今年3月の参院決算委員会で野党議員の質問に麻生太郎財務相は「貸金業者にかわって大銀行が同じ手口でやっている」「行き過ぎに危惧している」など、何らかの手立てが必要との認識を示した。

 

 こうした動きを受けて全国銀行協会は6月、「貸付がお客さまにとって過剰な借入とならないための配慮に欠けた表示等を行わないよう努める」などの宣伝抑制事項を盛り込んだ「申し合わせ」を発表するに至った。

 

 これには「お客さまの収入状況や返済能力をより正確に把握することに努める」など、収入証明書の確認を徹底していく姿勢も示されているが、こうした指針を実行するかしないかは、あくまでもそれぞれの銀行の判断となる。協会の宣言がどこまで実行力を持つのか、注視される。

 

 銀行カードローンの利用者が増えた理由は、経済政策や法律面などさまざまあるが、根底に不況があるのは確かだろう。金融庁の調べによると、カードローン利用の理由は「生活費不足」が38%で断トツだった。国民生活の苦境は政治の責任にほかならない。真っ当な金融行政の確立を目指してほしい。

(2017/11/06更新)