不動産投資家に流行の兆しで規制間近?

金取引による消費税還付スキーム


2016年度税制改正により、不動産投資家による消費税還付スキームは徹底的に封じ込まれた。免税事業者への変更要件ルールが見直され、自販機スキームは滅び去り、あらゆる節税手法が封じ込まれたかにみえた。だが、納税者の知恵は潰えたわけではなかった。家賃収入を超える課税売上を作るために金の売買に注目し、消費税の還付を受けるためだけに取引を繰り返して、新たな還付スキームを駆使し確立した。「次の税制改正では狙われるだろう」という予想も立つなか、国税と納税者の新たな戦いの火ぶたが切られようとしている。


 「それなら私もやっていますよ。金投資還付スキームですね。いつ規制がかかるか分からないので、今年と来年くらいでガッツリ稼がせてもらうつもりです」

 

 金の売買によって課税売上を増やし、建設時に発生した消費税額の還付を受ける節税策について、東京・台東区の税理士はあっさりとこう語った。いわゆる自販機スキームと呼ばれた消費税還付方法に縛りがかかって以降、不動産投資家が頭を抱える中で、新たに登場した手法に注目が集まっている。

 

 消費税還付の手法としては、数年前まで不動産オーナーの間で「自販機スキーム」が大流行したことを覚えている人も多いだろう。輸出大企業の規模には及ばないものの、富裕層の間で一世風靡したこの方法は全国で広く活用されたが、流行した節税策の宿命として、当局の取り締まるところとなり、数度にわたる税制改正で完全にシャットアウトされた。

 

 この方法は、賃貸用マンションを建設する際に自販機やコインランドリーなどを設置して課税事業者となり、消費税還付を受けるための課税売上基準をクリアして、マンション建設にかかった消費税額を取り戻すというものだ。還付後に免税事業者に戻ることで、「3年の間に課税売上割合が著しく変動したときには還付額の調整を行わなければならない」という縛りをクリアして還付が完成する。

 

 しかし、大きな見返りのある節税策は、一部で行われている分にはお目こぼしもあるが、それが普及してしまうと当局は節税策を「租税回避」と認識して取り締まりを強化することになる。

 

 自販機スキームは、当該資産(調整対象固定資産)を買った年度の課税売上割合が3年後に5%以上減少し、かつ50%以上変動していれば調整額を納付するというルールの抜け穴がベースとなっていた。3年目を迎える前に免税事業者になって調整をすり抜けていたのだが、それが禁じられたのである。

 

売買を繰り返して課税売上に

 そうなると否が応でも調整判定をせざるを得ず、もしも消費税の還付を受けるのであれば3年間の賃料収入以上の課税売上が必要になる。マンション賃料以上の収入を自販機で上げることは難しく、多くの投資家が観念せざるをえなかった。

 

 だが、八方ふさがりに思えた締め付けであっても、見方を変えることで光が差し込むことがあるようだ。「3年後には必ず調整が必要」というルールは、逆に見れば、「課税売上を増やせば調整は怖くない」ということになる。そうした考えから最も効率よく高い売り上げを叩き出せるものとして注目されたのが「金」の地金というわけだ。

 

 金は多少の価格変動はあるものの、比較的安定した商品であり、金額も明確で取引自体も簡単だ。当初資金は必要だが、購入と売却を繰り返すことで高額な課税売上を確実に計上できる。もちろん、売買業者への手数料は必要だが、マンション建設時の消費税が還付されることに比べたら微々たる必要経費といえるだろう。

 

 そうした理由から、投資家にとって平成最後の救世主として大いに注目を集めている。だが、リスクがないわけではない。

 

 最も恐れるところは、やはり税務調査での否認だろう。短期間に金の売買を繰り返しているのだから、プロの調査官が何かあると疑わないほうがおかしい。仮にこの処理が認められたとしても、「合法なら何でもする」という印象を税務調査官に与えるのは得策とは言えないと指摘する専門家もいる。

 

税務調査で「金投資の明細出せ!」

 東京・墨田区の税理士は「税法に抵触しなくても、法の不備を突いた脱法行為として刑法によって攻められる可能性はゼロとは言い切れない。そんな危ない橋を渡ることを顧客に勧めはしないと思う」と、この還付スキームに消極的な考えを示した。

 

 だが一方で、冒頭に話を聞いた台東区の税理士は、「実際のところこのスキームを何件も実行し、中には1千万円を超える還付もありましたが否認されたことはもちろん、税務調査が実施されたこともありません」と言い切る。

 

 たしかに、現行法上で引っ掛かるところはないため、必要以上に構えることはないのかもしれない。消費税は法人税などに比べて脱税と認定される範囲が広いと言われているが、一定の税務処理を税務署長の職権で否認する「行為計算否認」が消費税については認められていないこともあり、今回取材した中でも、多くの税理士が脱税には当たらないだろうという考えを示した。

 

 国税OBで税務調査の実態に詳しい松嶋洋税理士も、「消費税の租税回避に関する判例では、消費税の還付目的に沿って取引することも問題ないと解説している」と、現状での合法性を語る。ただ、「最近は還付申告にあたって国税から金投資の明細を出せと言われることが増えた。おそらく次回か、その次の改正でブロックしてくるのではないか」とも予想している。

 

 節税策を巡る納税者と当局との争いは、税がある限り尽きることはない。今回の金取引による消費税還付も、合法ではあるが時限的な節税スキームになるのかもしれない。

(2019/01/04更新)