消費税率10%へ 増える事業者負担

軽減税率のややこしさ


 消費税率10%への引き上げまで1年を切り、増税と同時に導入される「軽減税率」の姿がようやく明確になってきた。8%と10%の線引きが不明瞭なテイクアウトの税率については、小売店による顧客への意思確認や店内での案内の掲示など、店側の頑張りに頼る部分も非常に大きなものになりそうだ。また、税額が異なる店内飲食とテイクアウトを同価格で販売することも店側の裁量に委ねられ、申告書と納税額が正しければ「いくらで売ろうとかまわない」という消費税が抱える税としての本質的な問題点も浮き彫りになってきている。


 消費税増税にともなう軽減(複数)税率制度に関する勉強会が11月上旬、財務省2階の会議室で報道関係者を対象に開催された。同じ食料品でも、8%の税率が維持されるものと10%課税されるものとの線引きは、テイクアウト商品をはじめはっきりせず、その仕組みが広く国民に認知されているとは言い難い。勉強会でも、やはり質問はテイクアウトの扱いに集中した。

 

 軽減税率は酒類を除く飲食料品と一定の新聞に適用され、食品はレストランなどでの「外食」が対象外で10%税率とされる。判断が難しいのは、どこまでを外食、すなわち店内飲食とし、どこからを持ち帰り(テイクアウト)にするかで、これは基本的に店と客との合意がベースになると考えられている。

 

店内飲食とテイクアウト

 コンビニエンスストアでは店内に飲食コーナー(イートインコーナー)を設けている店も多いが、このときは店員が外食か持ち帰りかを確認し、商品の税額を計算することになる。問題となりそうなのは、テイクアウトを告げて8%税率で購入した客が店内に友人を見つけて店内飲食に切り替えたときなどだ。本来なら店側が2%分を追加で支払ってもらうのが筋のようにも思えるが、軽減税率の適用判断は「販売の時点」というのが原則であるため、代金と商品の受け渡し後に何をしようとも基本的に問題はないことになる。

 

 だが、「税額分をもらえなかった」では通らないのが消費税という税制の特異な点だけに、そうした状況が常態化した際には、税務署が取りはぐれた店側に過少申告などのペナルティーをちらつかせることは現行の消費税制をみても想像に難くない。

 

 当局では、コンビニをはじめイートインコーナーのある店舗に対しては、「テイクアウト商品の店内での飲食はご遠慮ください」といったお願い文を掲示してもらうことによってルールの徹底をはかるよう要請していくという。軽減税率制度を理解していない客とのトラブルなども想定されるなかで、小売店の負担が増大するのは間違いないだろう。

 

 コンビニのイートインコーナーは名前のとおり飲食スペースであるため分かりやすいが、路面店の前面歩道や隣接する駐車場などの店外での飲食はどう扱うのかというと、これは実態に即した判断になるという。立ち飲みの路面店などで、客が外で食事することに店との合意があると見れば、これは店内飲食と同様に10%税率が適用される。ショッピングモールなど複数の店舗が入る施設でも同様だ。実態に即した判断ということから、この「合意」には暗黙の合意が含まれるとみていい。「一歩でも店から出たら持ち帰り」などという屁理屈は通りそうにない。

 

 2%の違いは店側にとって大きなものだが、利用する側の一般消費者にとって外食は「ぜいたく」ということになっていくだろう。そうした顧客へのサービスとして、店側が店内飲食も含めて全て8%で販売して、申告は店内分を10%として申告するとどうなるかというと、これは消費税法ではなく、8%への増税時に制定された「消費税転嫁対策特別措置法」に引っ掛かる可能性があるという。

 

 ただし、「2%分の消費額はいただきません」というのはできないものの、「いくらで販売します」という形なら単なる値段の設定であるため問題ないそうだ。実際、ドイツのマクドナルドでは、持ち帰りも店内も値段は一緒で、税率の違うレシートが出るという。

 

同価格販売は店側の裁量で

 国税庁の軽減税率導入に関する資料によると、イートインスペースがある小売店の価格表示の例が3つ想定されている。まず持ち帰りと店内飲食の両方の価格を表示する例、次にテイクアウトの価格だけ表示したうえで注記として「店内での飲食は価格が異なります」とする例、そして同一の価格を表示する例だ。つまり、価格の決定権は小売店にあるのだから、いくらで販売してもかまわない。顧客に負担をかけずに1000円で販売したければ、持ち帰りでは本体926円(税込1000円)、店内飲食では本体909円(税込1000円)で売ることも可能ということだ。

 

 軽減税率への対応は、企業側の努力次第ではかなりの自由裁量が認められていることになる。だが、これが税制としてまっとうな姿かというと疑問を抱く人もいるだろう。薄く広く国民みんなで負担するという建前は弱まり、あくまでも取引にかかる税金として、消費者はその増税分の価格を支払っているだけという本質がここにきてあらわになった形だ。

 

 国税庁はホームページに掲載しているQ&Aを刷新して想定されるケースでの明確化に努めるほか、関係府省庁に特別会議を設置して業界団体に対しても制度の周知に努めたいとしている。

 

 しかし消費税の仕組みと軽減税率の実態が周知されればされるほど、税務署の下請け的に事業者がやらなければならない数々の事柄にも気付いてしまうだろう。

(2019/01/07更新)