税理士の失敗から学ぶ典型的な税務ミス


 税理士が顧客から訴えられたときに備えて加入する「税理士職業賠償責任保険」(税賠保険)の最新の事故事例を紹介する。税理士でも間違えやすい税務を把握しておくことで、過大納付を防ぐようにしたい。


【事例1】共同住宅の売却助言ミスで消費税課税

 平成28年に共同住宅を購入したA社は、消費税を原則課税方式に基づいて申告した。その後、顧問税理士に「共同住宅をいつ売れば消費税の負担が少なくて済むか」と相談し、「29年3月期以降」との回答を得た。それ以降であれば免税事業者となるため、住宅の売却益が発生しても課税されないということだった。そのアドバイスに従い、29年4月に売買契約を締結して物件を売却。

 

 しかし実際は、基準期間がない課税期間に一定額以上の資産を購入した法人の特例により、A社は3年経過するまでは課税事業者のままだった。売却益に消費税が課税された結果、A社は本来より700万円も多く税金を支払うこととなった。

 

 税賠保険の保険金の支払い件数は、消費税に関するものが他の税目と比べて圧倒的に多い。公表されたデータによると、29年に保険金が支払われた527件のうち半数近い251件が消費税関連だった。

 

【事例2】合併後の存続会社繰越欠損金使えず…

 B社とC社は合併することを決め、どちらの会社を存続させるかという点について税理士に相談した。B社には所得がない一方で繰越欠損金があり、C社には合併直前の固定資産の売却で多額の所得が発生する見込みがあった。税理士は、どちらの会社を存続会社としてもC社の所得をB社の繰越欠損金で相殺できると判断し、登記費用が安くて済むB社を存続会社として手続きした。

 

 だが税法のルールでは、C社の所得は合併前のものなので、存続会社をB社としても繰越欠損金を使うことはできなかった。税理士の判断ミスによる損害と認定され、税賠保険から約2千万円が支払われた。

 

【事例3】役員賞与の損金不算入事前届け出の説明漏れ

 D社は毎年、役員に一定額の賞与を支給していた。役員賞与は事前に税務署へ額や支給時期を届け出れば損金にできるが、顧問税理士がそのことについて全く説明していなかったため、D社は届け出ていなかった。D社が税理士に問い合わせた結果、7期で1800万円の賞与が損金不算入となっていたことが発覚した。

 

【事例4】住宅資金贈与の特例税理士が手続き失念

 Eさんは住宅資金の贈与を受け、それを元手に家を購入した。住宅資金の贈与が一定額まで非課税になる特例の対象となるため、税理士に申告手続きを依頼。適用を受けるには贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに税務署で手続きをする必要があったが、税理士は手続きそのものを失念した。税金の過大納付額は300万円だった。

 

 住宅資金贈与の特例は、住宅の新築や増改築を目的とする資金を父母や祖父母などの直系尊属から贈与された場合、一定額まで贈与税が非課税になるもの。非課税となる贈与額は消費税率の引き上げ時に上限がアップされ、省エネ・耐震・バリアフリーなどの性能に優れた住宅であれば3千万円(消費税率8%時は1200万円)、それ以外であれば2500万円(同700万円)となる。

 

【事例5】減価償却で誤り 税理士交代で発覚

 賃貸用物件を建設したFさんは、税理士に建物の減価償却の手続きを任せていた。その後、別の税理士に申告代理を任せることにした際、以前の税理士の申告の誤りに気付いた。建物の構造・用途的には耐用年数を34年とするべきだったが、前の税理士は耐用年数を47年としていた。業務を引き継いだ税理士が、申告書を作成する時点で前任者の誤認に気付いたという。

 

 過去5年分の過大納付については税務署に減額を求める「更正の請求」で取り戻せたが、それ以前は税法のルールで返還されなかったため、減価償却処理を誤った税理士に約1千万円の賠償を求めた。

 

【事例6】所得拡大促進税制条件満たしているのに…

 3期にわたって賃上げをしたG社は、給料引き上げ分の一部を法人税から差し引ける「所得拡大促進税制」の適用要件を満たしていたが、過去の申告内容を確認すると適用されていなかった。この点について顧問税理士に確認したところ、判断ミスで適用していなかったことが発覚した。G社は実害900万円について税理士に損害賠償を請求した。

 

 最近の税務ミスの傾向として、所得拡大促進税制の適用に関する誤りが増加している。法人税の税賠事故160件のうち、67件が同税制の適用失念となっている。

 

【事例7】青色申告の承認申請期限は開店の2カ月後?

 Hさんはコンビニエンスストアの開店準備段階で、不動産所得の計算を任せている税理士に申告手続きの相談もした。税理士は開店の2カ月後までに「青色申告承認申請書」を提出すれば青色申告を適用できると考え、その期間内に提出した。

 

 青色申告承認申請書の提出期限は、新たに事業を開始するケースでは事業開始日の2カ月後までだが、すでに別の事業を始めている場合は3月15日までに提出しないとその年には適用できない。Hさんには不動産所得があり、すでに事業を始めているとみなされるため、提出期限はコンビニエンスストア開店の2カ月後ではなく、その年の3月15日だった。そのため青色申告を適用できず、600万円の損害が発生した。

(2019/09/02更新)