法定相続情報証明制度がスタート

1通の証明書で手続き簡素化

相続登記促し所有者把握


 相続人全員の氏名や本籍などの戸籍情報をまとめた文書を相続手続きの証明書として利用する「法定相続情報証明制度」が5月29日にスタートした。この制度で相続人の手続きが簡素化することにより、相続登記をする人が増えて自治体による所有者把握が進み、固定資産税の徴収や公共工事がスムーズになることを国や自治体は期待する。しかし相続人にとっては、相続登記をするメリットを見出しづらいのが実情だ。


 不動産の登記名義人だった人が死亡した際は、一般的に財産を受け取った人が所有権の移転登記をするものとされている。しかし登記は任意であり、仮に手続きをしなくても罰則があるわけではない。そのため、特に資産価値が低い不動産を相続した人は面倒な相続登記をせず、被相続人名義のまま放置することがある。そうなると、国や自治体は本来の所有者を把握できず、老朽化したまま放置された空き家の処理ができなかったり、固定資産税を徴収できなかったりといった支障が生じることになる。

 

 民間シンクタンクの公益財団法人東京財団の自治体向けアンケート調査によると、回答した自治体のうち、相続登記が行われていないために実際の所有者を調べきれず、〝やむなく〞死亡者名義で固定資産税を課税する「死亡者課税」をしているケースが16%もあった。名義が誰であろうと相続人から固定資産税を徴収できれば良いという自治体の思惑が見える。

 

 さらに83%の自治体は「死亡者課税をしているかどうかわからない」と回答。登記上の所有者が死亡したことに自治体が気づかないまま課税している可能性もあるようだ。ほとんどの自治体が実際の所有者を把握できないまま固定資産税を課税している異常な状況だ。

 

相続登記にメリットはあるのか

 登記しない相続人がいる理由は、手間やコストが掛かるためだ。登録免許税や登記簿謄本代、交通費(郵送費)といった実費のほか、司法書士に依頼するなら報酬が必要になる。登記変更しなくても罰則を受けない以上、放置するという判断をしてもおかしくない。

 

 また、残された不動産を受け取れると判断して登記した後、実際には別の人が相続することになると新たに登記コストが掛かるため、先延ばしにするうちに手続きを失念する人もいる。

 

 しかし登記の専門家である司法書士は、相続登記をしないと不動産活用の際にリスクが生じると警鐘を鳴らす。桑瀬登起子司法書士によると、「相続登記していない不動産を放置したままだと、売却や担保提供をする段階で支障が生じる可能性がある」と指摘する。

 

 親が数十年前に相続した不動産の相続登記をしないまま、死亡したとする。新たに相続した子どもが名義を書き換えるための登記をするには、親の戸籍を含めて数十年前の資料を取り寄せなければならない。

 

 しかし役所にはすべての資料が残されているわけではない。例えば死亡した人の住民票の除票なら5年などと定められた「法定保存期限」を過ぎたものは、廃棄されている可能性があり、相続人がその不動産を売却もしくは担保提供するための資料を用意できないという事態が起こり得る。売るに売れない不動産が発生しかねない。

 

 また、不動産を担保にして金融機関からお金を借りる際も、自分名義に書き換えておかなければならない。名義の変更をしなかったために、融資を受けるタイミングが遅くなってしまう可能性は考慮する必要があるだろう。せっかく相続した財産を思い通りに活用できないという事態にならないように、早期に登記の状況をきちんと確認しておく必要がある。

 

遺産分割協議の書類は必要

 相続登記しない相続人がいることを受けて、法務省がスタートさせるのが「法定相続情報証明制度」だ。相続の手続きを簡素化することで相続登記を後押しする狙いがある。

 

 親族が死亡すると、相続人は相続税の申告、不動産登記の変更、銀行口座の解約などの手続きのため、被相続人の出生から死亡までの戸籍や相続人全員の戸籍など大量の戸籍書類一式を何セットもそろえなければならない。新制度ではこれらの情報を1通の証明書にまとめ、手続きを簡素化する。

 

 新制度を利用するには、相続人は全国に417カ所ある登記所のいずれかに、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍関係書類と、被相続人と相続人の情報を記した「法定相続情報一覧図」を提出する必要がある。

 

 一覧図に記入するのは被相続人の氏名、住所、生年月日、死亡年月日、相続人の氏名、住所、生年月日、続柄で、作成は難しいものではない。登記所の登記官はこれらの提出書類を確認し、偽造防止措置が施された認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを相続人に渡す。相続人はこの写しを数枚用意することで、戸籍書類一式を何セットもそろえる必要がなくなる。

 

 制度開始時点では不動産登記の際の必要書類として使えるほか、都内の金融機関の窓口でも「従前の戸籍関係書類に代えて法定相続情報一覧図の提出を受けた際も受け付ける予定」としており、被相続人の銀行口座を解約する際にも基本的に新たな証明書で対応できる見込みだ。さらに経営承継円滑化法で遺留分に関する民法特例の確認を受けるための書類にも利用できる。将来的には、相続税の申告の際にも使えるようになるという。

 

 ただし、被相続人や相続人が外国籍の人である場合など戸除籍謄抄本を添付できないケースでは制度を利用できない。また、相続放棄や遺産分割協議の書類は別途必要になる。

 

 そもそも新制度によって手続きが多少楽になるとはいえ、土地を売却したり担保にしたりする予定がない限り、相続登記を急ぐ必要性は薄い。相続人が登記変更しないまま放置するという状況は今後も続きそうだ。

(2017/06/29)