ありがちな申告ミスにご用心

〝うっかり〟で多額の損失

消費税で失敗続出


 信頼して申告を任せていたた税理士のミスで、税金を必要以上に多く納めてしまうことがある。損害があまりに大きければ、ふだんお世話になっている税理士先生であろうと、やむなく賠償請求することになるだろう。税理士業界には、ミスを犯す恐れがあることを前提に、顧客から訴えられたときの賠償分の一部をカバーする「税理士職業賠償責任保険」(税賠保険)がある。日本税理士会連合会(日税連)は毎年この時期に、税賠保険による補償を税理士が申請した事例を紹介し、同様のミスが起こらないように注意喚起している。税理士の失敗を反面教師にして、自社のミスで税金を過大に納付することのないようにしたい。


簡易課税方式やめれば納税額が減ったのに…

 税務申告ミスに関する日税連の事例報告には、「失念」の文字が散見し、税理士の単なる〝うっかり〞で損を被る納税者の存在が浮かび上がる。毎年、消費税に関するうっかりミスが目立つ。

 

 消費税は通常、売上分の消費税額から仕入分の消費税額を差し引く「原則課税方式」で納税額を算出するが、前々年の課税売上高が5千万円以下の事業者は、業種ごとに定められた「みなし仕入率」と課税売上高を使って仕入分の消費税を計算し、売上分の消費税から差し引く「簡易課税方式」を選択することもできる。

 

 不動産業を営んでいるA社は、翌年度に多額の設備投資をすることを税理士に伝えた。それまでは簡易課税方式で税額計算していたA社だが、設備投資などで仕入れの額が大きい年度は実際に支払った消費税額を差し引く原則課税方式の方が〝お得〞であるため、年度開始前に「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出して原則課税方式に切り替える必要があった。しかし税理士が届出を失念してしまい、本来であれば納める必要のない税額を支払うはめになってしまった。

 

 課税方式の変更に関する失敗と並んで消費税の申告ミスの〝常連〞なのが、免税事業者と課税事業者のいずれを選ぶかという点だ。多額の仕入れがある事業者は、支払い時の消費税が売上の際に受け取る消費税分を上回るので、課税事業者になれば還付を受けられる。そうであるにもかかわらず、税理士が届出一式の提出を「失念」したばかりに免税事業者のままとなり、事業者が損害賠償を求めるケースが後を絶たない。

 

決算賞与を損金不算入 所得拡大税制が不適用に

 法人税の申告ミスでは、会社の所得から差し引ける控除額が過少になってしまうケースが多い。

 

 決算賞与を社員に支払うことをB社から聞いた税理士は、その額を当該年度の損金に算入しなかった。利益が大幅に出て多額の法人税が必要な年度には、決算賞与で損金額を増やせば節税につながるが、B社はそのメリットを受けられなかった。

 

 さらに、社員への給与額を増やした会社がその増加額の1割を法人税額から控除できる所得拡大税制も、損金にしなかったことで不適用になった。

 

 ふるさと納税で税優遇を受けられない?

 

 任意の自治体に寄付すると税優遇を受けられる「ふるさと納税」で〝損〞をしてしまった人もいる。

 

 ふるさと納税は、自治体に寄付をすることにより、住んでいる場所で納める所得税や住民税で控除を受けられる制度で、思い入れのある土地を応援できることに加えて、寄付に対して自治体から贈られる返礼品の豊富さが人気を集めている。

 

 Cさんは自己負担額2千円を除いた全額が所得税や住民税から控除される上限につき、税理士から「上限は250万円」と聞かされ、その範囲で寄付をして返礼品を受け取った。しかし、本来の上限はそれよりも低く、超えた分は単なる寄付になってしまい、税メリットを受けられなかった。

 

 ちなみにこのケース、税賠保険を運用する損害保険会社は税理士に損害賠償分を支払っていない。税賠保険がカバーするのは税理士のミスで税額が過大になったときや税還付を受けられなかったときであり、上限を超える部分の支出については税金とは関係なく、寄付行為としては有効であると判断したためだ。

 

宗教法人への遺贈分を相続財産から除外せず

 個人に重い負担がのしかかる相続税では単純ミスが命取りになりやすい。

 

 Dさんは相続財産のなかから不動産を宗教法人に寄付(遺贈)する内容の遺言を残して死亡した。宗教法人への遺贈分は、法人内部の人が私的に使える状況でなければ相続財産から外せるが、税理士はそれに気づかず相続財産に含めてしまい、Dさんの親族に相続税を過大に納めさせることになってしまった。

 

 税理士の申告ミスを依頼者が発見!

 

 納税者が税理士に疑問を投げかけたことによって発覚したミスもある。

 

 相続税額の計算上、L字や三角形などの土地(不整形地)は宅地としての使い勝手が悪いため、正方形や長方形などの整形地と比べて評価額が下がる。この評価減制度を使うと評価額が3割下がることもあり、1億円を超える土地なら数千万円単位で税額が変わる。

 

 しかしEさんが依頼した税理士は、不整形地の評価額を減らさずに申告。Eさんに指摘されて初めて評価減制度を使っていないことに気づいたという。

 

 正しい評価額を算出して税額を訂正し、還付を受けるための手続き「更正の請求」の期間は過ぎていたため、Eさんは多く納め過ぎた分を税務署から取り戻すことはできず、やむなく税理士に損害賠償を請求した。

 

 疑問を持った部分について質問を投げかけることで誤りが発覚し、問題を水際で食い止められる可能性はゼロではない。たとえ誤りがなくても、質問をすれば税金に関する知識が深まり、問題に気づけるようになる。納税者自身のミスが原因の失敗も防げる。自社の経営状況を把握するためにも、申告書に目を通してできるだけ内容を理解するようにしたい。

(2017/06/30更新)