7月に成立した改正民法により、自筆証書遺言は文書の一部をパソコンで作成することが可能となった。さらに、法務局が遺言書を預かってくれる新たな制度を使えば紛失するリスクもなくなるなど、これまで自筆証書遺言の作成の際につきものだった不安材料が一部解消される。新しい規定は2020年7月までに適用される予定だ。民法の改正を踏まえた遺言の残し方を整理してみた。
民法に定められている遺言の形式のうち「自筆証書遺言」は、作成の際に費用が掛からず、また他人の協力が不要であるため気軽に書ける。だが、記載漏れなどで内容が無効になる恐れや紛失のリスクを持ち合わせている。一方、費用はかかるが公証人に作成してもらう「公正証書遺言」は、内容が無効になることや紛失の心配はない。自筆証書遺言とはメリットとデメリットが正反対になる関係となっている(表)。
改正民法では、財産目録についてはパソコンでの入力が認められるようになる。また、金融機関の通帳のコピーを遺言に添付することも可能だ。この見直しによって、記載内容に誤りが生じる可能性を多少なりとも減らすことができる。
これまでは不動産の全部事項証明書や金融機関の口座番号などの大量の資料をいちいち手で書き写さなければならなかったのに対し、今後はそうした手間が大幅に減るほか、土地の番地や口座番号の書き写しのミスによって内容が無効になる恐れもなくなる。相続させる財産が多ければ多いほどその一つ一つを正確に書き写すだけでも大変な手間だっただけに、今回の改正はありがたい話だ。
もちろん、ミスをするリスクが多少減らせるものの、完全になくすことはできない。その点では、公証人という法律実務のプロの手で作成される公正証書遺言の強みは変わらない。
さらに今回の改正では、法務局の保管庫に遺言書を預ける制度も導入された。
遺言の原本を保管した法務局が、相続発生後に遺族からの請求があれば写しを交付するという制度で、自宅での保管と異なり、紛失や親族による改ざん・隠匿を心配する必要はなくなる。
相続人は相続が発生したら法務局に遺言の写しの交付を請求し、遺言の中身を確認することになる。なお、公正証書遺言は公証役場に保管されるため、法務局に預ける制度を利用した際と同様に紛失や改ざんのおそれはない。
また、法務局の保管制度を利用すると「検認」が不要になる。検認とは家庭裁判所が遺言書の加除訂正の状態などの内容を明確にして偽造を防ぐための手続きである。通常は自筆証書遺言を発見した相続人がその場で封を開けてはならず、検認を受けてからでないと中身を読むことはできない。
手続きを経ずに開封しても遺言自体が無効になることはないが、民法の規定によって5万円以下の罰金処分が下されることに加え、他の相続人に偽造を疑われる原因になりかねない。
さらに、家庭裁判所が発行する検認済発行書がないと、不動産の名義変更や預金の解約などの手続きができないことになっている。検認を受けるまでには1カ月以上かかることもあり、その間は葬儀の費用すら銀行から引き出せない。しかし保管制度を利用した遺言は検認手続きが不要となるため、相続の際に起こりかねないそうしたトラブルを減らすことが可能となる。
親族が集まる正月やお盆、法事などの機会を利用して家族でよく話し合っておけば、誰にどの財産を残すのかを決めやすくなるだろう。財産を残す本人が遺言で「私の遺志はこうである」とはっきり示すことは、関係者全員を納得させるための最大の決め手となる。
遺言をうまく活用すれば、特定の財産を特定の人に残し、また相続人同士の争いを最小限にとどめることができる。民法改正で遺言書の使い勝手が高まることも踏まえ、財産の残し方について改めて考えるようにしたい。
(2018/09/28更新)