給与課税される境界線

調査官が狙う役員報酬


 役員報酬は税務調査で定番の狙われどころだ。最近は、福利厚生費などの項目で計上した費用が役員報酬であると指摘されることも多い。税務署に否認されれば役員が給与課税される上、会社は法人税を追徴される。国税当局の人事異動から2カ月以上経ち、税務署が秋の税務調査を本格化させるこの時期は、会社にとって役員報酬の計上漏れの有無を見直すタイミングともいえる。役員のための支出が給与課税の対象にならないか、その境界線を確認する必要がある。


 役員報酬のうち会社の損金にできるのは、原則として毎回の支払い額が変わらない給与に限られ、臨時に支払われるボーナス的な報酬は損金に算入することができない。これは、利益が出た時に臨時で役員報酬を増額して法人所得を減らすことで、法人税額を圧縮する税逃れを封じるためだ。

 

 原則では支払い額が変わると役員報酬は損金にできないが、例外として事前に報酬額を決めて税務署に届け出た上で支払う給与や、会社の利益や株価指標を基に機械的に計算して支払う給与は損金になる。事前に届け出る給与は株主総会から1カ月後もしくは事業年度開始から4カ月後までのいずれか早い日までに税務署へ確定した額を届けなければならず、多額の利益が出たタイミングに合わせて利益調整をすることは難しい。これらのルールに則った会計処理をすることが役員報酬を損金にする基本となる。

 

 この基本を踏まえたうえでさらに押さえておかなければならないのは、会社としては報酬として支給したわけではなくても、税務上では報酬とみなされてしまう可能性があることだ。交際費や福利厚生費など報酬以外の項目で計上していた費用を調査によって報酬と判断されると、個人は給与が支払われたとみなされて所得税を課税される。さらに社員への給与であれば会社は変わらず損金にできるが、役員だと定期同額で支払う給与など一定の条件の報酬以外は損金にできないため、法人税の追徴課税を受けることになる。

 

 役員報酬に関する税務調査で重要なキーワードとなるのは公私混同だ。調査官は役員の私的な支出が会社の経費にされていないかを細かくチェックする。

 

 例えば取引先の接待や従業員の慰安を目的に会社が別荘を持つことがあるが、役員だけがプライベートで使用していると、会社が支払う維持費用などは役員への給与や貸付金として課税対象になる。実際に事業で利用しているなら、利用規程の保管やホームページでの施設紹介、利用実績報告書の記載の徹底などによって証拠を残し、税務署に疑問を抱かせないようにする必要がある。

 

 社用車も税務調査で目を付けられやすい項目だ。会社が業務で使用する自動車の取得費は、一定期間での減価償却が認められている。付随費用として会社が支出する保険料や車検代、ガソリン代、そのほかメンテナンス費用ももちろん経費になる。しかしプライベートでも使っているとその分を損金にできなくなる。運転日報などで公私の利用実績をきちんと分け、税務署に不要な疑念を抱かせないようにしなければならない。

 

 交際費も役員の公私混同が多い項目として税務署に狙われる。役員個人の支出だと税務署に判断されると経費として落とせないので、領収書とともに、同席した取引先の名前を残しておく必要がある。

 

 このほか、役員が対価を支払わずに会社の商品を無断で使用すると、その商品の時価相当額が役員報酬となり、会社は損金不算入となる。

 

臨時の報酬は原則として損金不算入

 また、福利厚生の費用は、特定の人だけを対象とすると損金にできない。代表的なものが、役員や社員を被保険者かつ受取人とする定期保険だ。会社が特定の人に限定して保険料を負担すると、給与課税の対象になる。

 

 全従業員分の負担は必須ではないが、一定の条件に該当した人の保険料を会社が負担する仕組みにする必要がある。例えば運送業を営む会社が交通事故のリスクを踏まえ、1年以上勤務した役員や社員を被保険者・受取人とする掛け捨ての定期保険契約を締結したとすると、一定期間勤務した全員が保険料を会社に負担してもらえるので、特定の人のみを対象としているものとはならず給与課税されない。

 

 通常の定期健康診断とは別に、数十万円レベルの高額な人間ドックを特定の役員だけに受けさせると、やはり給与課税の対象になる。国税不服審判所で争われた事例では、役員が病気になると会社への影響が大きいという経営リスクを考えると、社員と比べて高額な人間ドックは妥当と会社が主張したが、審判所に認められることはなかった。

 

 社員旅行でも、成績優秀者など特定の人だけを対象としたものは給与課税の対象だ。課税されない条件は、旅行期間が4泊5日以内で、参加人数が全体の半数以上であることとなっている。

 

お金のやり取りも慎重に

 会社が役員や社員と金銭の貸し借りをすることがあるが、無利息または一定の割合より低い利息で貸すと、所得税の対象となるので注意が必要だ。給与課税されるかどうかの利息の境界線は貸した状況や時期によって異なり、会社が銀行などから借り入れて又貸しした時にはその借入金の利率となり、それ以外であれば2017年以降は1・7%とされている。この割合は13年まではしばらく4%台だったため、以前と同じ割合で貸している会社は見直しが求められている。

 

 ただし、災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員や社員に合理的な金額や返済期間で貸し付けた場合には基準を下回っていても課税されない。また、会社で「平均調達金利」など合理的と認められる貸付利率を定めての貸し付けや、たとえ基準を下回ってもその差額が1年間で5千円以下の貸し付けであれば給与課税されることはない。

 

 反対に、会社が役員や社員から金を借りる時に支払う利息が多すぎれば、適正な利率との差額が給与と見なされて、所得税の課税対象となる。税務署からの指摘を避けるためにも、利率は相場並みにしておくのが無難と言える。

 

 会社が役員や社員に社宅などの不動産を貸すときの家賃も税務署に狙われやすいポイントだ。実際に支払われた額が適正価格より低ければ、その差額が給与扱いとなる。ここでいう適正家賃の算出方法は、床面積132㎡以下(建物の耐用年数が30年超なら99㎡以下)の住宅と、それ以外の住宅で計算方法が異なる。いずれも建物と敷地の固定資産税課税標準額、床面積を基に算出する。

 

 ただし、社会通念上一般的に貸与されている社宅とは認められないような〝豪華社宅〞だと、時価(実勢価額)がそのまま賃貸料相当額になる。豪華社宅であるか否かは、床面積が240㎡を超えるもののうち、取得価格や賃貸料の額、内外装の状況にかんがみて税務署が判断することになる。また、床面積が240㎡以下でも、役員個人の嗜好を強く反映したプールなどの設備があると、豪華社宅とみなされてしまうこともある。

 

 会社を発展させるために力を尽くしている役員を厚遇することもあるが、給与課税される可能性を踏まえて実行する必要がある。役員に関する支出には税務署から厳しい目が向けられやすいという認識は持っておかなければならないだろう。

(2018/10/01更新)