検証◆ふるさと納税①

総務省が招いた〝大迷走〟


 6月から、ふるさと納税制度が変わる。過度に豪華な返礼品を送る自治体は除外され、〝節度〞を保った自治体だけが制度の活用を許されるようになる。しかし安倍晋三首相はこれまで、「地方創生」の要として自治体に対して自助努力を求めてきた。様々な創意工夫によって寄付金を集める自治体は本来評価されるはずだが、なぜ彼らは批判されるようになってしまったのか。その背景には、制度創設から確固たる指針を示せない総務省の〝迷走〞ぶりがあった。ふるさと納税を巡る問題の本質を探る。


 ふるさと納税制度は、任意の都道府県・市区町村に寄付をした場合に、今住んでいる場所で納める個人住民税や所得税から税額控除を受けられる制度だ。地域間の財源格差の是正や、生まれ育った故郷を応援したいという声を受けて、2009年に始まった。導入に際しては、菅義偉官房長官(06年〜07年は総務大臣)の意向が強く働いたといわれている。

 

 しかし思い入れのある土地を応援できるという画期的な仕組みとは裏腹に、制度開始当初の利用件数は伸び悩んだ。

 

 存在自体をあまり知られていなかった制度が広まるきっかけとなったのは、開始2年目に起きた宮崎県の口蹄疫問題だ。多くの家畜を処分してダメージを受けた同県を支援するため、当時としては異例の2千万円以上の寄付が集まった。

 

 そして、その流れは翌年に発生した東日本大震災で爆発する。被災地への復興支援の新たな形としてふるさと納税が広まった結果、制度を利用した寄付額は前年比10倍増の650億円まで激増した。

 

官邸サイドへの〝忖度〟も背景に

 しかし同時に、その頃から返礼品競争の萌芽はあったようだ。制度の普及をきっかけに返礼品を用意する自治体が増え始めると、翌12年には民間企業のトラストバンク(東京都目黒区)が、全国自治体の返礼品を一覧できるポータルサイト「ふるさとチョイス」を開設。目当ての返礼品から逆引きして寄付先を選べる方法が確立されたことで、ここから返礼品競争は一気に過熱していく。

 

 各自治体がこぞって返礼品で寄付者を集める流れに対して、制度を所管する総務省が初めて公に反応を示したのは、15年に入ってからだ。この年の1月に千葉県大多喜町が還元率7割の商品券を提供し始めるなど、豪華返礼品が全国で話題となっていたが、それでも高市早苗総務相(当時)は「返礼品などは良識を持って運用してほしい」とコメントするにとどめた。

 

 総務省が返礼品競争への介入に消極的だった背景には、何より返礼品が制度外の存在だった点がある。返礼品はあくまで自治体が寄付者に好意で送るもので、ふるさと納税の制度に組み込まれてはいない。総務省が強制力を持って規制することは、地方自治の観点から原則としてできなかった。また安倍政権が「地方創生」をうたい自治体の創意工夫を推進していたことや、ふるさと納税自体が菅氏の肝いりではじまったことなどに対する〝忖度〞もゼロではなかっただろう。

 

「朝令暮改」に戸惑い

 その後も自治体の返礼品競争は過熱の一途をたどり、総務省はたびたび強制力のない「自粛要請」を送るも、今度は、要請に素直に従う自治体と、そうでない自治体の間で溝が生まれることになってしまう。

 

 また17年8月に就任した野田聖子総務大臣(当時)が「返礼品については原則として自治体に任せたい」など一転〝容認〞姿勢を見せるなど総務省側の態度も変転し、結果として「総務省の方針は朝令暮改なところがあり戸惑っている」(鈴木力・新潟県燕市長)と混乱を与えた面は否定できない。

 

 結局、返礼品競争を巡る混乱は収まらないまま、昨年8月に菅氏が「制度本来の趣旨と違う」と発言したことで一気に規制強化へと舵を切ることが決まった。導入と同様に、菅氏の〝肝いり〞で事態が動いたわけだ。大迷走に振り回され続けた自治体の側こそ、たまったものではないといえるだろう。

(2019/05/31更新)