新しくなった医療費控除

変更点を再確認!

メリットの反面、義務も増える!?


 10万円超の医療費を所得から差し引ける「医療費控除」の手続きが2017年分の確定申告から変わる。これまで束にして申告書に添付していた領収書の提出が不要になるというメリットがある反面、申告する人には新たな義務が課される内容になっている。2017年1月にスタートした「セルフメディケーション税制」とどちらを選択するかなど、医療費控除はいつもより考えることが少しだけ多い。確定申告に向け、変更点や間違えやすいポイントを確認しておきたい。


 これまで医療費控除の申告といえば、束になった領収書をクリアファイルや封筒などに詰め込んで、確定申告書と一緒に税務署のカウンターに提出するというのが当たり前だった。だが、そうした光景は過去のものとなりそうだ。

 

 国税庁はこのほどホームページ上に、医療費控除の手続きについての説明文を掲載した。申告する側にとってはメリットもデメリットも両方ある内容だが、最大の変化はなんといっても、これまで申告書への添付が義務とされてきた領収書の提出が不要となったことだ。といっても、もちろん好きなように医療費の額を申告できるというわけではなく、新たに導入された「医療費控除の明細書」に、1年間にかかった医療費の金額や内容を細かく記入し、それをもって領収書提出の代わりとみなされることになる。

 

 明細書には大きく分けて、①医療を受けた人の氏名、②支払先、、③医療費の区分、④金額、⑤保険などで補てんされる額――を書く欄がある。③についてはさらに「診療・治療」、「医薬品購入」、「介護保険サービス」、通院費など「その他の医療費」の4区分のどれかを選んでチェックを入れる。

 

 さらに、これまでは添付書類として利用できなかった健保組合などから送られてくる「医療費のお知らせ」が認められるようになったため、それを基に医療費の総額や実際に負担した額を記入すれば、前述した支出ごとの明細も記入不要だ。

 

 「お知らせ」に含まれていないが控除対象となる費用もあるため、最終的に領収書との突き合わせは必須だが、それでも記載の手間はかなり減ったと言ってもいいだろう。

 

「明細書」に細かく記入

 それでは、これまで束にして保存していた領収書は、データさえ取っておけば紙は捨ててもいいのかというと、そうではない。

 

 新たな医療費控除制度では、領収書の提出が不要となった代わりに、自宅での5年間の保存が義務付けられることとなった。後から税務署に求められることがあれば提示せねばならず、もし紛失していれば医療費の支出自体がなかったとされる可能性も否定できない。過去の医療費の領収書を求められることがそうあるとは思えないが、まとまった額の支出を証明する書類である以上、万が一の時のことを考えて保管はしておくべきだろう。これまでは1年分をまとめて申告時に提出してしまえば終わりだったが、今後はその5倍を常に保管していなければならないわけだ。

 

 この改正の背景には税務署側の事情があるとも言われる。毎年の申告で提出される大量の領収書は、単純に場所を取り、保管にかかるコストもゼロではない。税務署のこうした負担をなくし、納税者それぞれの自宅を〝倉庫〞として使うという理由が、今回の改正にはありそうだ。

 

市販薬控除とどっちが得か?

 医療費控除を利用する上で、もう一つ考えなくてはならないのが、2017年1月にスタートした「セルフメディケーション税制(市販薬控除)」との選択だ。ドラッグストアなどで売る一部の市販薬を年1万2000円超買うと所得から超過分を差し引くことができる同税制は、医療費控除との併用ができない。病院に多くかかるのなら医療費控除、市販薬で済ませることが多いなら市販薬控除を利用するのが基本的な考えとなるが、すべての市販薬が控除対象ではないことや、市販薬控除には10万円上限があることなど、注意点も多い。

 

 どちらが得かは条件次第だが、簡易的な判断方法として、まず薬代を含めた医療費全体が18万8千円を超えるなら医療費控除が有利だ。次に、医療費全体が18万8千円以下であれば、「市販薬控除の対象となる分を除いた医療費」に着目したい。これが8万8千円以下ならば、おおむね市販薬控除のほうが得となる。逆にこれが8万8千円を超えるなら医療費控除のほうが有利だ。医療費全体が10 万円を超えないのであれば、そもそも医療費控除の適用対象外なので、市販薬控除の一択となる。

 

 市販薬控除を申告する人も医療費控除と同様、領収書の添付は不要だ。専用の「セルフメディケーション税制の明細書」に支払先や医薬品の名称、金額などを記載して領収書に代える。ただしこれまた医療費控除と同様、領収書の5年間の保存が義務付けられている点には注意したい。また市販薬控除を利用するためには、インフルエンザの予防接種などの「健康増進のための一定の取り組み」が必要であることにも留意すべきだろう。

 

 健保組合や保険会社などから確定申告に必要な書類が続々と手元に送られてくる時期となった。土壇場になって焦らないよう、今から医療費控除と市販薬控除の選択を含めて準備し、受けられる税優遇はすべて受けるようにしたい。

(2017/12/31更新)