今年も年末調整業務の時期がやってきました。毎年の〝恒例行事〞とはいえ、一年に一度しかないこともあり、「これ、どうするんだっけなあ」という疑問は毎年のように生まれるものです。このQ&Aでは、編集部や税理士事務所に寄せられる頻出の質問を中心に、いまさら聞けない「基本のキ」から珍しいレアケースまでを取り上げます。これから取り掛かる皆さまの年末調整業務の参考になれば幸いです。
メインとなる勤務先以外からの収入が20万円を超える人や住宅ローン控除を初めて受ける人は確定申告が必要となり、年末調整と確定申告で実務としては二度手間になります。しかし残念ながら確定申告だけで処理を済ませ、年末調整を省略できるという仕組みにはなっていません。
年末調整の対象となるのは、原則として12月末まで会社に勤めているすべての人です。パートやアルバイトも含まれますが、例外として給与の年間収入金額が2000万円を超えている人は対象外となります。
会社が社員の年末調整を怠ったことで納めるべき税額が少なくなったとしても、従業員には何の罰則もありません。しかし会社の代表や総務担当者には、10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金という重い罰則が用意されています。
また年末調整をせずに確定申告が必要になった人が確定申告をしないでいると、本人も追徴課税や刑罰の対象になります。故意に無視したとなれば脱税ということですので重々注意してください。
今年から配偶者控除と配偶者特別控除の要件などが大きく変わったことを受け、提出書類にも変更が加えられています。前年まで控除に関する書類が2枚あり、一つは「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」でした。これは書類の右上に「扶」の文字が大きく丸で囲ってあることから、「マル扶」と呼ばれます。そしてもう一つ、「給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」があり、こちらは「マル保・配特」と呼ばれていました。
今年の年末調整からは、このうち「マル保・配特」が「マル保」と「マル配」の2枚に分かれます。前年までは、配偶者控除を受ける人は「マル保・配特」の提出が不要か、あるいは保険料控除の部分だけ記入して「配特」の欄は白紙のままでもよかったのですが、今年からは「マル配」の記入提出が必要となります。
また内容についても、納税者本人の所得などについて内訳も含めた詳細な記述が必要となります。配偶者控除の対象となる人には漏れなく「マル配」の書類を配布するとともに、記載内容についてのアナウンスも欠かさないようにしましょう。
扶養親族の判断はその年の12月31日に行います。そのため離婚などは年明けまでしないほうが得なのですが、扶養親族の死亡に関しては、その年の間に亡くなったとしても「居なかったもの」とはされず、年始から扶養状態にあったのであれば扶養親族として扱われます。
扶養親族や控除対象配偶者に当たるかどうかを判定する際の所得に、所得税法などによって規定された「非課税所得」は含まれません。そして厚生年金保険法や国家公務員共済組合法などに基づいて支給される遺族年金は、所得税も相続税も課されない非課税所得に当たります。
遺族年金と同様に扱われる非課税所得には、他に損害賠償金や生活保護、宝くじの当選金などが該当します。また相続によって得た財産には相続税が課されるため、二重課税の防止を理由として所得税は課されていません。つまり相続財産を受け取ったとしても、それを理由に扶養親族の対象から外れることはありません。
税法で定める「扶養親族」の要件は、生計を共にしていて、年間の所得が38万円以下などと細かく定められています(給与所得だけなら103万円以下など)。しかし実は、扶養親族のすべてが扶養控除の対象になるわけではありません。扶養控除を受けられる扶養親族とは、その年の12月31日時点で16歳以上であることが条件です。つまり赤ちゃんや中学生の子は含まれません。
2010年までは年少扶養控除という制度があり、16歳未満の子どもも一人当たり38万円(住民税では33万円)が控除されていたのですが、子ども手当の創設によって廃止されたためです。
年の途中で会社を退職した人で年末調整が必要となるのは、①死亡により退職した人、②著しい心身障害で退職し、本年中の再就職が不可能と認められ、退職後本年中に給与の支払いを受けない人、③本年に受け取った給与が103万円以下で、他の勤務先からも給与を受けない人――などの例外に限ります。これらのケースに該当しなければ、たとえ退職した人の次の勤務先が決まっていなくても、年末調整を行う必要はありません。
ただし年末ギリギリに退職して12月分の給与も受け取っているなど、すでに本年中の給与所得が確定している場合には、年末調整が必要ですので注意してください。
12月支給の給与については、所得税を年内ギリギリで徴収したり還付したりと、経理処理が面倒です。そこで年末調整にあたっては、「給与から源泉所得税を徴収したうえで調整を行う」という基本ルールの例外的処理として、12月の源泉徴収額の計算を省略して行うことが認められています。年末調整の計算と年内最後の給与の計算は同時に行うのだから、その分の源泉徴収の計算は省略可能ということです。その際には12月の給与の源泉徴収額をゼロとして年末調整を行います。
保険料控除を受けるためには保険会社から送られてくる「保険料控除証明書」の提出が必須です。例えば年内に結婚したばかりということであれば、証明書に記載された名前が旧姓ということもあり得ますが、旧姓でも問題なく保険料控除は受けられます。ただし改姓を証明する戸籍抄本や住民票によって会社が本人確認できていることが条件ですので、余裕があるなら新たな姓での保険料控除証明書を取り直してもらうほうがベターでしょう。
一方で、保険料控除証明書のコピーやFAXは控除を受けるための書類として認められていません。必ず原本を提出してもらうようにしましょう。
年末調整での控除証明といえば、生命保険料控除と住宅ローン控除が二枚看板でしょうが、日々多くのダイレクトメールなどを受け取るなかで、控除に必要な証明書を紛失してしまう可能性は大いにあり得ます。もし証明書を紛失してしまった場合には、再発行してもらう必要があります。
生保控除の証明書の紛失に関しては保険会社のコールセンターに電話するか、インターネットでも簡単に再発行を依頼できます。たいていは数分で済むでしょう。一方、住宅ローン控除の証明書は基本的に銀行の窓口に本人が出向いて申請する必要があります。身分証明などが必要になりますので、事前に電話で確認したほうが無難です。
もし期限までに間に合わなくても、来年1月末までに年末調整をやり直すか、2月〜3月に確定申告を行うことで控除は受けられます。ただしどちらも手間がかかりますし、年末調整のやり直しとなれば給与支払報告書など他の書類も全て直す必要が生じます。そのようなことにならないよう、なるべく早めの確認と再発行の手続きを促すようにすべきです。
年末調整に関するミスで圧倒的に多いのは、手書きによる数字の書き間違いです。小さなミスでも控除額に大きく影響することもありますので、誤りを発見したらすぐに訂正の手続きをとりましょう。
一つ前の質問と同様で、対処法は年末調整のやり直しか確定申告となります。サラリーマンであれば、通常は総務課で対処しますが、会社に内緒の収入があるときなどは自分で税務署に行く必要があります。源泉徴収票を持参して確定申告の手続きをしてください。訂正や変更についてはそれぞれ期限が設けられていることがありますので、早めの確認が必要です。
年の途中で会社を移ると、前の職場と今の会社の両方で得た所得に基づいて年末調整することになります。そのため、前の職場に源泉徴収票の発行を要求することになるのですが、必ずしもすぐに発行して送付してくれるとは限りません。納税者本人の還付などにも関わるため根気よく交渉する必要がありますが、どうしても無理なときは、年末調整は行わずに確定申告をすることになります。
年末調整の際に提出する書類には、日本に在住するすべての人に付与された12桁の「マイナンバー」を記載する欄が設けられています。各種申請書への記載は法律で義務付けられていて、扶養控除の申告書などには家族全員のマイナンバーを書かなくてはなりません。
ただし、マイナンバーの不記載について民間団体が主な省庁に問い合わせたところ、マイナンバーを扱うことの多い国税庁、内閣府、厚生労働省では、マイナンバーの記載がなくても書類は受理し、不記載による罰則や不利益はないとしています。
マイナンバーの記載に不安を覚える人は不記載もひとつの選択肢かもしれません。ただ、総務担当者としてはやはりきちんと全員分を集めてつつがなく処理したいところでしょうし、マイナンバーの不記載に罰則や不利益はないとしながらも、やはり社の中枢にいる総務担当者としては、行政と対峙するのは避けたいものです。
そこで、マイナンバーが集まらないときの対処法としては、①集めようと努力した、②集まらない理由はこれだ――という2点をしっかり文書で残しておくしことをお勧めします。①は、マイナンバーの提出が義務であり、それを全社的にどのような手段で何度伝えたかなど、②は実際に提出を拒否した人の言い分などです。
なお前年の年末調整の際に従業員や家族のマイナンバーをすでに把握しているなら、新たに収集、記載する必要はありません。マイナンバー制度には情報管理に厳しい規定や罰則が設けられていますので、あえて番号を集め直すというリスクを冒す必要はないでしょう。
(2018/11/29更新)