〝夢の節税策〟の落とし穴

乗っ取られる一般社団法人


 子へ直接引き継がせるのではなく、「一般社団法人(一社)」を介して財産を引き継ぐことで相続税負担をゼロにする。そんな〝夢の相続税対策〞に、2018年度税制改正大綱で手が加えられた。理事に占める親族などの割合を半数以下に抑えれば、今後も一社を使って相続税を回避することはできるが、それは同時に、大事な財産を委ねた法人が〝乗っ取り〞に遭うリスクを増大させることを意味する。目先の「得」を求めた結果、将来大きな「損」を被らないよう、一社を巡る税金の仕組みとリスクを把握しておきたい。


無税で財産を引き継げても…

 2008年に制度改革が行われるまで、社団法人や財団法人は、官庁が定める厳しい基準を満たし、相当な額のお金を保有していないと設立できないものだった。しかし改革で誕生した一般社団法人は、厳しい要件や設立資金が不要となり、誰でも設立できるようになった。簡単に登記のみで設立できるだけでなく、公益法人とは異なり設立後も役所の監督を必要とせず、自由に営利活動を行うことが可能だ。株式会社とほぼ同様に運営することができる法人と言えるだろう。

 

 では一社と株式会社との違いはどこかと言うと、持分があるかどうかという一点に尽きるだろう。株式会社では持分に応じて剰余金が分配され、解散時の残余財産も分配されるが、一社では持分がないため、剰余金の分配や解散時の残余財産の分配は基本的に行われない。

 

 また株式会社は持分割合に応じて会社を所有するが、一社は持分がないので、誰も法人を所有していない。仮に法人を設立するときに資金を出した人がいても、それが剰余金や残余財産の分配という形で個人に戻ることはない。

 

 この「誰のものでもない」という点を活かしたのが、一社を利用した相続税対策だ。株式会社であれば、株主や出資者に相続が生じれば、持分に応じた会社の資産や負債が相続税の対象になる。しかし一社には持分がないので、法人の保有する資産や負債はだれの所有物でもなく、相続税の対象にならない。中小オーナー企業の社長一族の相続では自社株式が主たる財産となるため、これをオーナー個人から一社に移すことによって相続税を大きく節税できるというわけだ。

 

税制改正で要件見直し

 この相続税対策がリッチ層の間で話題となり、08年の制度改革以降、一社の新設法人数は年々増加してきた。東商リサーチの調べによれば16年に新設された一般社団法人は5996社で、8年連続で過去最多を更新している。

 

 しかし、目立ちすぎた節税策はお上によって取り締まられるのが世の習いだ。最新の18年度税制改正大綱では、一社を使った相続税対策について、「①相続開始直前時点で、総理事数に占める同族役員数が2分の1を超えている法人、②相続開始前5年のうち3年以上で、総理事数に占める同族役員数が2分の1を超えている法人」については「特定一般社団法人等」と規定し、法人に譲渡された財産についても相続税や贈与税を課すとした。

 

 これまでも法人が実質的に同族で支配されていると認められた時には相続税が課されるといった規定はあったが、判断基準が明確でなく実際には野放しとなっていた。あいまいだった要件が明確化され、同族の理事を半数以下に抑えなければ相続税や贈与税を非課税にしないとはっきり規定したのが今回の改正だ。

 

 もっとも、言い換えれば同族の理事を半数以下に抑えれば今後も節税策として使えるということだが、ここに最大の落とし穴がある。前述のように、株式会社とは異なり一社には持分がない。持分がないということは議決権もなく、法人としての意思決定は単純に、理事の頭数による多数決となる。つまり同族役員が半数以下に制限されるということは、外部の人間に意思決定権を委ねることと同義なのだ。

 

 今回の税制改正は、「一社を使った相続税対策は今後も使えるが、引き換えとして、決して少なくない〝乗っ取り〞のリスクを抱えることになる」と言い換えられるだろう。目先の税負担を抑えるために一社を設立したが、将来的に法人ごと財産を奪われる展開もあり得なくはない。

 

 さらに、税制改正大綱が半数以下に抑えるべきとした「同族役員」は、血縁上の親族だけにとどまらない。大綱では、被相続人、その配偶者、3親等以内の親族に加えて、被相続人と特殊な関係にある者として「被相続人が会社役員となっている会社の従業員等」まで「同族役員」に含めている。親族に近いような身内を理事に据えて要件をクリアするという抜け道が使える可能性は低そうだ。改正の内容は、原則として今年4月1日以後に適用され、同日より前に設立された法人については21年4月1日以後に発生した相続から適用される。

 

最後は〝覚悟〟の問題

 他に、改正を経ずとも、相続税以外の税負担が生じる可能性があることは踏まえておきたい。

 

 社長個人の財産を一社に譲渡した時には、取得価額と譲渡価額に差額があればそこへ譲渡所得税が課税され、時価より低い価額で譲渡か贈与をすれば受贈益に法人税が課される。公益社団・財団法人と同様の事業や運営であれば税負担を免れることもあるが、ほとんどのケースでは譲渡所得税など何らかの税負担が避けられないと受け入れて、譲渡・贈与による税額と相続税の節税額を比較して考えることが求められる。

 

 税負担の問題などをクリアして、いざ一社設立ということになれば、過半数を占めることになる理事を同族以外から選ぶことになる。親しい知人や友人に意を含めて理事になってもらうことはできるが、将来的に心変わりしないという保証はない。結局、最後はどこまで他人を信用できるかという〝覚悟〞の問題になるのかもしれない。

(2018/03/01更新)