シーズン到来! 秋の税務調査対策

準備は万全ですか?


 スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋、芸術の秋…。長く厳しい暑さが過ぎ、ようやく秋の深まりを実感できるようになった。だが中小企業経営者としては秋を満喫してばかりはいられない。税務署では7月に人事異動が行われるため、その引き継ぎも一段落した秋は本格的な税務調査のシーズンとなる。春に比べてじっくりと腰を据えて臨んでくる秋の税務調査。顧問税理士と相談しつつ、万全の態勢で臨みたい。


 役所の会計年度は毎年4月〜翌年3月となっている。それとは別に国税当局は「事務年度」という区分を設けており、この区分が税務調査に大きな影響を及ぼすことになる。毎年7月から翌年6月までがひとつの事務年度で、これに沿って税務署内の人事異動は毎年6月末から7月に行われる。そして、新体制になってから数カ月経った秋口から調査が本格化する。

 

 税務調査の季節と言えば、9月〜12月に加えて確定申告後の4月。税務署の動きを理解しておくと、調査への臨み方も変わってくる。春の調査は各部署や人員に割り振られた〝ノルマ件数〞を6月末までに達成するという意味合いが強い。数をこなすことに主眼が置かれるため1件あたりの調査期間は短く、内容も軽くなる傾向がある。それに比べて秋の調査は、しっかりと時間をかけて納得がいくまで調べられるので油断ならない。

 

消費税の取り締まりを強化

 調べられる内容に目を向けてみると、調査は全税目について行われるため、「この税目は手を抜いても問題ない」というのは一つもない。それでも特に万全の注意を払うべきポイントを挙げるならば、真っ先に10月に増税された「消費税」が挙げられる。

 

 今年6月に発表された「国税庁リポート2019」では、重点項目事項として富裕層の海外資産の租税回避と並ぶ形で「消費税の適正課税の確保のため、十分な審査と調査の実施」を掲げている。2017年度の消費税調査による追徴税額の総額は748億円にのぼり、5年前の474億円と比べ57・8%増となっている。ここ数年、国税庁長官の会見でも、消費税の不正への対応は積極的に取り組むべきテーマとして繰り返し語られているように、消費税への取り締まりが今後も厳しさを増していくことが容易に想像できる。

 

 深刻なのは消費税の滞納率の高さだ。1993年以降、新規発生滞納額は各税目のなかで常にトップで、18年度は全税目の滞納額6143億円のうち、全体の半数以上を占める3521億円となっている。

 

 特筆すべきは、増え続ける消費税の滞納を上回る勢いで「滞納整理」が進められているという事実だ。徴収率の向上に力を入れている当局が未納分の徴収と差し押さえを増やすことで、滞納者から厳しく取り立てていると言っていいだろう。

 

 国税の滞納残高は1998年度をピークに20年連続で減り続けている。税務調査を受け、追徴課税を払えずに財産を差し押さえられ公売にかけられてしまった企業の存在がうかがえる。たかが消費税という認識は甘いと考えておく方が身のためだ。税務調査に入られてからでは遅いということを認識した上で、普段から納税資金を確保するための資金繰りを含め、しっかりとした対策をしておきたい。

 

調査割合が高い相続税

 次に注意したい税目は、他の税目に比べて課税対象者への調査の割合が最も高い「相続税」だ。この税目の税務調査で恐ろしいのは、調査を受ける可能性が高いというだけではなく、調査に入られると8割近くは何らかの申告漏れが発見されるという〝打率〞の高さだ。また1件あたりの是正額も約2500万円と他の税目に比べて高額化する傾向にある。

 

 相続税の調査は相続発生から2年程度経ってから実施されることが一般的だ。例えば17年度に調査対象となったのは15年の相続となる。15年に申告書を提出した相続の数は10万3043件で、17年度に実施された相続税の実地調査の件数は1万2576件。単純計算すると申告した相続のおよそ12・2%、つまり8件に1件が調査を受けたことになる。法人税で調査対象となるのが申告件数の3%程度であることを考えると、相続税は格段に調査割合が高い。

 

 国税当局は調査先の選定後、調査を効果的に実行するための情報集めに余念がない。最近ではブログやフェイスブックなど、インターネット上で相続人や被相続人の生活状況を調べ上げる。そして、被相続人の自宅などに赴く「実地調査」への移行が決まれば、国税通則法に基づいて事前通知。納税者のもとに調査官2人で向かうことになる。

 

 調査官は家に上がって仏壇に手を合わせると雑談を始め、すぐに〝本題〞には入らないという。だが、焼香や雑談の段階で調査官が臨戦態勢に入っていることを納税者は知っておきたい。

 

 15 年以上にわたって調査官を務めていた国税OB税理士は「線香をあげたり、トイレを借りたりするときには室内、廊下をさりげなく観察して、できる限りの情報を集めることに全力を傾けます」と話す。

 

 雑談の際には、生活費や納税資金の出所や、被相続人の死亡原因といった、調査に関係していることをさりげなく探っているという。

 

 前出の国税OB税理士によると、申告漏れ財産を探すため、調査官は香典帳、芳名帳、年賀状、アドレス帳、手書きのメモ類にいたるまで、財産把握につながりそうなものは必ずチェックするという。納税者が申告していない銀行・証券会社や取引先の名前が香典帳やアドレス帳から出てくることもあるからだ。

 

 調査官はさまざまなことを知ったうえで財産に関する質問を納税者に投げ掛ける。納税者としては痛くもない腹を探られるわけだが、だからこそ堂々と調査官と対峙したい。

(2019/10/31更新)