相続税対策でも投資でも

その中古マンション既存不適格かも

ビンテージマンションを探せ!


 相続税対策として中古マンションへの投資が注目を集めている。現金を不動産に替えておくことは相続対策の基本的手法だが、数年後の市場価値が読めない新築物件に比べ、一定の資産価値が保たれている「ビンテージマンション」の安心感は高い。ただ、中古マンションを選ぶ際に注意したいのは「既存不適格」でないかどうかだ。どんなに立地や居住性が良くても、建替不能ということであれば、売却時の資産価値に大きく影響する。ビンテージかスラム予備軍か、しっかりと見極めたい。


 ここ数年、富裕層の節税策としてもてはやされてきたのはタワーマンションの上層階への投資だった。マンションの分譲区画の相続税評価額は階数にかかわらず同一であるが、実際の取引価格は高層階ほど高くなるため、相続を見越して高層階の住戸を購入しておき、相続税申告後に未使用のまま売却すれば、譲渡所得税がかかるとはいえ、多額の現金を無税で引き継げるという仕組みだ。

 

 しかし2017年度税制改正で、相続財産評価の基礎となる固定資産税の評価方法が見直され、高層階への税負担が引き上げられた。国税庁は実売価格と税負担に著しい差が認められるケースについては税務調査を積極的に行う姿勢を示しており、相続税対策としてのタワマン投資は慎重にせざるを得ない。

 

 そこで新たに相続税対策として注目を集めているのが中古マンションへの投資だ。タワマン節税では中古物件への規制は見送られている点も見逃せない。

 

 中古マンションは、築年数の浅い物件でも新築と比べて7〜8割前後の価格で購入することができる。新築物件は建物のハードとしての信頼性や、実際の居住性などのソフト面の価値が未知数であるが、数年経って構造上の問題も居住者からのクレームもなければ、投資物件としての安心感がある。また、個人売主が多いことから消費税がかからない点も大きなポイントだ。何よりも、すでに物件があるため実物をみて判断できる点は大きい。

 

 また築年数が経過しても居住性や資産価値が保たれている物件は、業界では「ビンテージマンション」などと呼ばれ、価値の下がらない資産として貴重な存在となっている。

 

新耐震基準が大きな分かれ目

 だが、ここで注意しておかなければならないのが、建築時には合法であっても現行法に合致しないマンションの存在だ。一般に「既存不適格」と呼ばれ、増改築や建て替えに際して大きな制限を受ける。

 

 既存不適格とされるマンションは、業界の推定によると100万戸に及ぶと見られている。全国のマンションストックが500万戸であるから、実に20%にのぼる。

 

 既存不適格であるかどうかは、実物を見ても分からないから厄介だ。古いマンションは何らかの法規制に抵触する可能性があるのが現実で、1981年6月1日に定められた「新耐震基準」以後に建てられたかどうかが大きな境目になっている。ある専門家は「旧耐震基準で建てられたマンションの約9割は既存不適格」と断言した。既存不適格マンションは、建て替えの際には容積が大きく減り、全面建て替えはできなくなることが多い。現行の法制度ではどうすることもできず、スラム化するのを待つしかない状況だ。

 「建て替えたくてもできない。自分の家の資産価値が日に日に下がっていく現実を黙って見ているしかない」

 

 東京・文京区に建つマンションの住民Aさんはこう語る。Aさんのマンションは、有名小中学校も多数ある、いわゆる文教地区にある。そのため新築時から住む高齢者だけでなく、子連れで入居した30代の若い家族もたくさん住んでいる。

 

 築35年が経過した頃、建て替えの話が持ち上がって初めてマンションが既存不適格となっていることを知った。管理組合が複数の建設会社に建て替えの相談を持ち掛けたが、すべて「既存不適格だからできません」と断られた。既存不適格の問題があまり世間に認知されていないのは、その実害がまだ局所的にしか発覚していないからだ。Aさんのマンションのケースでも分かるとおり、建て替えを検討することになって初めて自分のマンションが既存不適格であることに気づくことが多い。

 

 Aさんのマンションは法規ぎりぎりの容積率で建てられている。容積率とは建物の大きさを決める規制だが、建築当時は土地に対して400%だったものが、自治体の用途地域見直しで350%になり、さらに日影規制が導入されたことで、現状では200%ほどになっている。

 

 Aさんは「建て替えれば規模が縮小してしまう。今は10階建て100戸だが半分の50戸しか確保できない。住んでいる人を追い出すわけにもいかないし、このまま朽ち果てていくしかないのか」と途方に暮れる。建て替えが可能かどうかは、中古マンションへの投資で、最大の判断材料ともいえるだろう。

 

業者まかせは禁物

 現行法に適合し、資産価値が下がらず、しかも安い中古マンションなどそうそうあるものではない。だが、めったにないからこそ、そうした黄金物件はビンテージマンションと呼ばれ、投資家が血眼で探す存在になっている。築年数が20年を経過しても新築時より販売価格が高くなっている物件もあるほどだ。

 

 繰り返すが、既存不適格物件は前述のようにマンションを見ただけではわからない。建築のプロでも計算ソフトなどでシミュレーションしなければどのくらい容積率や建ぺい率が減るのかわからない。いつ用途変更がなされたのかを把握できていない仲介業者も多いと聞く。くれぐれも業者任せにせず、自分自身でよく調べてから冷静に判断すべきだ。

 

 実際、ビンテージマンションに出会うのは偶然によるところも大きい。だが、だれが見ても黄金物件と分かるマンションでなくても、一見しただけでは分からない「隠れビンテージ」はいたるところに眠っている。大規模修善や耐震改修を控えているマンションは価値が急上昇する傾向にもある。さまざまな情報にアンテナを張って、優良な投資物件を見つけたい。

(2017/05/02更新)