国税庁はこのほど、2019年の相続税路線価を公表した。全国平均は前年を1・3%上回り、16年から4年連続の伸びを示した。一部の地域では地価が数年で大幅に上昇し、土地バブルの様相を呈している。だが、ここで立ち止まって考えなければならないのは、バブル期を過ごした人であれば思い当たる「バブルはいつかはじける」という教訓だ。地価上昇の一因とされる東京五輪までの期間は残り1年となり、さらに都市部の地価の下落要因になるとされる「2022年問題」が3年後に待ち受ける。現在の地価が〝天井〞である可能性も念頭に置いて資産対策を進めたい。
相続税路線価の全国平均が4年連続で上昇したのは、記録が残る1992年以降で初めてのこととなる。外国人観光客の増加によるインバウンド需要の高まりなどもあって主要都市で大幅に上昇し、19都道府県で前年を上回った。都道府県別で最も伸び率が高かったのは沖縄で、前年から8・3%上昇。続いて東京が4・9%、宮城が4・4%の伸びだった。
相続税路線価は毎年1月1日時点での一定の範囲内の道路(路線)に面した土地の価額を評価するもので、国土交通省が毎年3月に発表する公示地価の8割程度の価額が目安とされる。国税庁が毎年この時期に公表し、その年の1月1日から12月31日までの間に相続や贈与で受け取った土地の相続税評価額に直接影響を与える。すなわち、相続税路線価の全国的な上昇は、そのまま相続財産としての価値の上昇につながり、地主の税負担が重くなることを意味している。
地点別の上昇率トップで前年から5割増となった北海道ニセコ地区の場合、相続の発生時期が年をまたぐと、わずか1日の違いでも税負担が1・5倍となってしまう。相続税対策という視点で考えると地価の上昇は悩ましい面もあるということだ。
相続税の負担が重くなっても、土地を売却できれば納税資金は確保できる。しかし、不動産バブルの様相を呈している現状ではむしろ、地価が急落するリスクを踏まえた資産対策に考えを巡らせる必要がある。
不動産市場は今後の2〜3年で大きく冷え込みかねない様々なリスクを抱えている。過去の消費税率引き上げの際にはいずれも新築マンションの供給戸数が前年を大きく下回るなど不動産市場に大きなダメージを与えた。増税で景気が悪化すれば不動産の購入意欲が減退し、地価が下落することも十分にあり得る。
また東京五輪の閉幕後に地価が下落するという見方も根強い。前回の東京五輪(1964年)の後は地価が値崩れすることがなく、経済成長とともに上昇を続けた。だが、消費税増税が景気の回復に水を差しかねない今回は事情が異なる。五輪を見据えた海外投資家の不動産購入やインバウンド需要が減少することにより、地価は下がりかねない。
さらに首都圏や関西圏、そして中京圏の地価下落の引き金になるとされる「2022年問題」が3年後に待ち受ける。これは最大1万ヘクタールとされる「生産緑地」が宅地として売り出されることで、土地が供給過多になるというもの。生産緑地に指定されている間は固定資産税や相続税が優遇される反面、死亡や健康上の理由などで農業を続けられない状態にならない限り、農地以外の用途に使えず、また売却も禁じられるという使用制限が掛けられる。制限されている期間は30年で、制度がスタートした1992年から30年後の2022年に指定解除となる。
2022年問題に関するセミナーを各地で行っているNPO法人都市農家再生研究会の藤田壮一郎氏は、生産緑地に指定されている土地が一斉に売り出されることで「都市部周辺の地価は大暴落し、不動産市場に多大な影響を及ぼしかねない」と警鐘を鳴らす。
消費税増税、東京五輪の閉幕、2022年問題、さらに中長期的には人口減少といった大きなリスクが控えるなかで、土地バブル崩壊の可能性をも念頭に置いた対策の検討は欠かせない。
将来的に地価が下落することが見込まれるのであれば、地価が上昇しているうちに売却することがひとつの選択肢になる。高額な売却益を見込めることが何より大きなメリットで、さらに土地を持っているだけで毎年支払わなければならない固定資産税と都市計画税の負担をゼロにできる。
その売却益で別の土地に買い替えるなら、人口が増加している地域や観光客が多い地域など、今後も地価の急落が起こらないようなエリアの土地を見定めることが重要となる。なお、買い替える土地が事業用の土地であれば、譲渡所得税を繰延べる税制上の特例を利用することが可能だ。事業用資産を譲渡した年もしくはその前後に土地を購入し、1年以内に新しい土地で事業を始めることを条件に、課税を将来に繰延べる制度だ。
また、下落が見込まれる土地の相続税対策では、「相続時精算課税」を使って土地を贈与すると将来的に損をしてしまうおそれがあるので注意が必要だ。相続時精算課税は2500万円までの贈与の贈与税がゼロになる仕組みだが、将来的に相続が発生した際にはすでに受け取っている贈与財産は相続財産とされ、最終的に相続税が課税される。その際、相続時精算課税を使って贈与した財産は「贈与時の価額」で評価しなければならない。
贈与時の相続税評価額が2千万円だった土地は、相続時に1千万円の価値に下がっていたとしても、相続税の計算上の評価額は2千万円としなければならず、相続時精算課税を使わなかったケースと比べて税負担が増すことになる。また相続時精算課税を使うと、土地に掛けられる相続税を大幅に軽減する「小規模宅地等の特例」が適用できなくなるというデメリットも生じる。
価値が下がる不動産を持ち続けると、有効利用できないまま〝負動産〞として放置してしまうことになりかねない。総務省が今年4月にまとめた調査報告書によると、全国にある空き家の数は846万戸に上り、その半数が賃貸用の住宅だった。地価が上昇傾向で不動産市場が良好な時期だからこそ、不動産をマイナスの財産としないように資産対策を見つめ直したい。
(2019/08/28更新)