【複数税率】(2019年3月号)


消費税率が引き上げられるたびに、政府は事業者に対して「便乗値上げをしないように」と呼びかけてきた。便乗値上げの法的な定義はなく、取り締まる法律もないため「呼びかける」のが精一杯だ▼しかし政権は、その発足当初から物価の上昇を目論んでいたはず。日銀にしても2%の物価上昇を目標に据えていたはずだから、この呼びかけは矛盾しているようにも思える▼厚労省は消費税率引き上げに伴い、10月から医療機関に支払われる初診料を60円、再診料を10円、それぞれ引き上げることを決めた。消費税増税に便乗した値上げはダメだが、公定価格は自ら率先して引き上げるというのだから、これも大いなる矛盾だ▼それもこれも保険医療費が非課税になっているためだ。医療機関は、機器や薬剤などを仕入れる際に負担している消費税を、医療費に転嫁できない。開業医にとって消費税は、支払うだけで受け取ることのできない〝損税〞でしかない。初診料などの引き上げは、医療機関の損税負担を軽減するためのものだと国は説明する▼だが、これによって患者の窓口負担も増える。医療費を消費税の課税対象にして損税を解消しない限り、医者と患者の負担は軽減されない。医療にも「0%」の〝複数税率〞を設定するべきではないだろうか。