企業による社会的・文化的な貢献で節税

舞台緞帳

総費用 36,750,000(2013年当時)

 

弘前市民会館大ホール緞帳

 

棟方志功 「御鷹揚げの妃々達々」

西陣本綴織・272色、縦8m・横16m

川島織物セルコン(京都市)制作

 

公共施設の建て替えでニーズ増

青木繁の「海の幸」を忠実に再現
青木繁の「海の幸」を忠実に再現

 明治期を代表する洋画家、青木繁の代表作「海の幸」を再現した緞帳が廃棄処分されることになりそうだ。青木は福岡県久留米市の出身。緞帳は昨年7月に閉館した久留米市民会館の舞台に掛かっていたもので、1969年の開館時に同市が京都の綴錦織業者へ依頼して約1500万円で制作した。縦7・4m、横19・5m、重さ1・3トンの巨大な緞帳には2百色の糸が使用されており、延べ約1500人の職人が10カ月かけて仕上げたという。

 

 2014年に市民会館を耐震改修した北海道三笠市では、1969年の開館時から使用していた緞帳を廃棄する方針だったが、議会や市民から反対の意見が相次いだため方針転換した。炭鉱で栄えた街の様子がいきいきと描かれた緞帳は、縦7m、横16m、重さ約3百キロ。「北海道炭礦汽船株式会社幌内礦業所」と「住友石炭礦業株式会社奔別礦業所」の社名が緞帳下部の両端に縫い込まれており、2社によって寄贈されたものであることがわかる。この緞帳はその後、倉庫を使ったライブハウスを運営する男性に無償譲渡され、第二の人生を歩んでいる。

 

 青森県弘前市では2013年、市民会館を大規模改修した際に緞帳も作り直した。ここには1964年の開館時から同県出身の板画家、棟方志功がデザインした作品「御鷹揚げの妃々達々」の緞帳が掛けられており、これとまったく同じ絵柄で新品を制作した。総費用3675万円のうち208万円を市民からの寄付で賄ったという。同市では古い緞帳にも史料的な価値があるとして、改修後の市民会館で保存している。

 

自治体からの要請に応じて寄贈

三笠市民会館の緞帳
三笠市民会館の緞帳

 高度経済成長期に建設された公共・文化・学校施設の老朽化が進み、建て替えの時期を迎えている。地元への社会貢献、文化貢献という観点から、こうした施設の緞帳などを企業が新調し、寄贈する機会も増えることだろう。また、自治体などからの要請に応じるかたちで、企業がその制作費を負担するケースも多くなるかもしれない。

 

企業が自社名の入った緞帳を寄贈する場合、地方公共団体などへの寄付金とはならず、広告宣伝用の繰延資産として計上し減価償却する。緞帳の耐用年数は5年だ。一方、社名が入っていない緞帳を寄贈した場合には、それ自体では直接的な広告宣伝効果が生じないため、繰延資産ではなく寄付金として税務処理する。

 

有名作家に原稿依頼することも

棟方志功がデザインした弘前市民会館の緞帳
棟方志功がデザインした弘前市民会館の緞帳

 緞帳の耐用年数は5年だが、実際には半世紀近く使用されているものも少なくない。北海道三笠市民会館の緞帳には、当時それを寄贈した企業の名がいまも残っている。地元に根付いた企業として地域振興と産業発展に寄与すると同時に、街の歴史と文化を支えてきた社会的な貢献度をアピールするには、緞帳は抜群のアイテムだといえるだろう。なお、有名作家などに緞帳の原画を依頼する場合には、その原画料も制作コストとして考慮しておく必要がある。

 

 緞帳を寄贈するにあたっては、後々の税務処理の際に資料となるよう、①写真撮影し社名の有無を明確にしておく、②見積書や請求書に寄贈目的のものであることを明記してもらう、③寄贈する対象(相手)を明確にしておく、④寄贈する目的で制作することになった経緯を記した稟議書を作成しておく――ことなどを、念のため忘れないようにしたい。

(2017/06/13)