9年がかりで完全封印〝社債節税〟

相続税対策にフタ


 「社債」を使った節税手法が、最新の税制改正でついに規制される。利息の受け取り方次第で大きく税負担を減らせることからオーナー経営者の相続税対策に広く使われてきたが、9年がかりの3度にわたる見直しによって、とうとう完全にフタがされた格好だ。今後は社債の利息に対する税率が跳ね上がることになる。見直しの内容をしっかりと把握しておかなければならないだろう。


 企業が資金調達のために発行する「社債」は、同じく企業が発行する有価証券である「株式」とは異なり、出資者に利息が支払われ、また設定された期間を経過すると出資額が償還、つまり返済されるという特徴がある。ひとくちに社債といっても、金融機関が関与して出資を募る公募債、金融機関が引受先となる保証付き私募債、従業員や取引先など限られたひとを対象とする少人数私募債など複数の種類がある。共通しているのは社債から生じる利息は原則として税法上の「利子所得」として扱われる点だ。

 

 経営者が自分の会社に貸し付けを行った場合、その利息は税務上「雑所得」にあたり、他のすべての所得と総合して累進税率が適用される。2015年からは所得税の最高税率が上がったため、個人住民税と合わせると、貸付金の利息にかかる最高税率は55%(復興特別所得税含まず)となる。

 

 しかし社債ならば異なる税率が適用される。社債の利息は利子所得として扱うため、他の所得とは別に「源泉分離課税」される。その税率は一律20%だ。つまり通常の貸付金の利息にかかる税率とは大きな開きがあったわけだ。社債が相続税対策に使われてきた理由はここにある。

 

年間800万円の所得税を軽減

 例えば数年前に話題となった国内家具メーカー「大塚家具」をめぐるお家騒動でも、その発端となったのは同社が発行した少人数私募債だった。少人数私募債は社債のうちでも、①社債引き受けの勧誘対象が50人未満であること、②発行する社債が第三者へ譲渡される恐れが少ないこと、③発行総額が最低券面額の50倍未満であること――の3点を満たすことで、金融機関の審査や財務局への届け出を必要とせずに発行できるものだ。

 

 少人数私募債は引受先との間に信頼関係があれば担保を設定する必要がなく、金融機関が関与する必要もないので、利率や償還期間を自由に決定できるメリットがある。金融機関が関与して出資を募る公募債や、金融機関が引受先となる保証付き私募債と比べると、調達できる金額に限りがあるものの、さまざまな条件を自分で設定できる点が長所といえる。

 

 大塚家具の当時の経営者だった大塚勝久氏は、家族を資産管理会社「ききょう企画」の株主に据えたうえで、自分の持つ大塚家具の株を資産管理会社に売り渡した。その際、勝久氏の株を買い取るだけの資金力がききょう企画にはなかったことから、同社は社債を発行したのだが、その社債というのが少人数私募債だった。

 

 その引受先となったのは勝久氏自身で、自分の株を買い取らせるための資金を、社債を買うという形で提供したわけだ。ききょう企画はこれによって調達した15億円の資金で株式を買い取り、同時に「自分の持つ株を資産管理会社に移す」という勝久氏の計画も成功した。しかし、社債の償還期限となる5年後、償還を求めた勝久氏に対して娘の久美子氏が「もともと事業承継を目的としたスキームだから契約を自動延長することが暗黙の了解だった」として償還を拒否したことから、父娘の対立が激化していった。

 

 勝久氏が資金を貸し付ける手段として社債を利用した理由は、通常の貸し付けを行った場合と少人数私募債を利用した場合とでは、利息にかかる税率に大きな違いがあるためだ。大塚家具の場合、発行された社債に設定された利率は1・5%だったとみられている。15億円の社債が発行されたことから推計すると、勝久氏は毎年約800万円を節税したものと考えられる。

 

 このように少人数私募債などの社債は、同族会社の経営者が会社に資金を貸し付ける際の節税策として利用されてきた。役員給与を増やす代わりに少人数私募債を発行することで、役員個人にかかる所得税負担を低く抑えるという節税策も行われてきた。

 

不完全に終わった2度の規制

 こうした〝社債節税〟を問題視した国税当局は、これまで複数回の見直しにより規制に動いてきた。

 

 13年度税制改正では、社債の利息の税務処理について最初の見直しを行った。その内容は、16年以降に同族会社が発行した社債から生じる「同族会社の株主や役員が支払いを受ける利子」については、それまでの「税率20%の分離課税」という扱いを見直し、他の所得と総合して所得税の累進税率が適用される総合課税へと変更するものだった。社債に関する税務処理のうち、オーナー企業の節税手段としての使われ方に絞って封じ込めたわけだ。

 

 しかしこの見直しでは、総合課税が適用されるのは16年1月1日以降に発行される社債についてのみで、15年までに発行された社債については、従来と同じ20%の分離課税で利子を受け取れることとなっていた。そのためタイムリミットである15年末までに、償還期間を長期に設定した少人数私募債を発行すれば、まだ「うまみ」があった。

 

 見直し前の〝駆け込み発行〟が続出したことから、14年度税制改正では2度目の規制が行われた。その内容は「15年末までに発行された社債についても、16年以降は総合課税を適用する」というもので、前年の見直しの致命的な欠陥を認めた形となった。

 

 2度の規制を経て、オーナー企業が発行する私募債の利子については、社債を発行する会社の株を一定以上保有する経営者やその親族が支払いを受ける場合は総合課税となった。しかし、これは同族会社から直接個人が利子を受け取る場合に限られるため、社債を発行するA社と個人の間にもうひとつB社が挟まるケースでは事情が異なってくる。

 

 個人が、A社を支配する親会社B社の筆頭株主である場合には、A社から受け取る社債の利子については規制前と同様、分離課税という扱いが適用される。A社を支配するB社の筆頭株主であるのならば、実質的にはA社もまたその支配下に置いていることになるのだが、「個人」はあくまでもA社の株を保有していないというのがその理由だ。このように子会社、孫会社を組み合わせれば規制が意味をなさないという状況が、数年間にわたり放置されていたこととなる。

 

 それがとうとう、21年度税制改正で規制されることになる。最新の見直しでは、社債を発行する会社の株主が法人である場合には、その法人の株を一定以上持つ個人についても、総合課税にするというルールが定められた。子会社、孫会社を使っても、今後はすべて最高税率55%の総合課税の対象となる。この見直しは、今年4月1日以後に支払いを受けるべき社債の利子、さらに償還金に適用される。じつに9年がかり、3度にわたる規制によって、社債が持つ税制上のメリットは完全に失われたといえそうだ。

 

 とはいえ、資金調達手段としての社債の特性が失われるわけではない。また同族会社の発行した少人数私募債であっても、株主や役員でないひとが支払いを受ける利子については、今後も20%の分離課税が適用される。オーナー経営者はこれからも社債の特徴をよく理解した上で有効に活用していきたい。

(2021/03/30更新)