長期保有地の買い替えで

遊休地をつかえる事業資産に!

特例措置の内容をしっかりと把握


 国土交通省は税制改正要望で、会社が持っている遊休地を別の資産に買い替えることを後押しする特例措置の期限延長を求めた。税の専門家や不動産関係者の間で幾度となく廃止の可能性がささやかれてきたが、来年3月のタイムリミットが3年間延長されるかもしれない。また同省は、住宅リフォームに関する優遇措置の拡充も要望している。国が不動産の有効活用を後押しするさまざまな施策を講じようとしているなかで、会社や経営者は資産を無駄にしないよう、それらの制度の内容を知っておかなければならない。


 不動産を売却するとその譲渡益が課税対象になり、納税資金を差し引けば手元に残る現金は少なくなる。売却で得た利益で別の事業用資産を取得しようとしても、新たに資金調達をする必要性が生じることがあり、土地取引や設備投資に消極的になってしまいかねない。そこで、国は少しでも事業用資産の買い替えがしやすくなるよう、税制上の特例措置を講じている。

 

 この特例は、会社や個人が取得から10年経過した土地を売却し、別の事業用資産を買ったときに、売却時点での納税額を少なく抑えられる制度だ。資産の譲渡益の2割だけが課税対象にされ、残りの8割は買い替え資産の売却時まで課税が繰り延べられる。ただし、新たに取得する土地・建物が東京23区内なら課税が繰り延べされるのは7割、首都圏近郊や近畿圏の都市部などの定められた都市圏である場合は7・5割に縮減される。

 

 特例を利用すると、会社が事業用として持っていても使っていない土地(遊休地)を売り、別の場所に工場などを建てるときの税負担が大幅に減る。また、駐車場用地を賃貸アパート用地に買い替えるときにも活用可能だ。


新たな資産取得の負担を軽減

 特例は来年3月31日までの時限措置だが、国土交通省は8月29日、平成29年度税制改正要望で特例の3年間延長を求めた。これまで数度の延長を繰り返しており、今回も国交省の要望通り期限が延ばされる可能性は十分にある。

 

 

 ただし、今回の期限切れは、消費税増税延期や法人税減税の影響で、国が税収確保を喫緊の課題としているタイミングであり、この特例が狙い撃ちされる可能性もゼロではない。各省庁の税制改正要望が出そろった後に活発化する今後の税制議論や年末に出される税制改正大綱を注視していく必要がある。

 

 特例を利用している法人のうち、資本金1億円以下の中小企業が73%を占めるという事実を基に、国交省は中小企業の設備投資の促進につながる施策であると強調する。日本の会社の99・7%が中小企業であることを考えれば大企業のほうが利用割合は明らかに高いが、利用できる中小企業が多いのも事実だ。本紙の姉妹紙『納税通信』で「そうだ! 税理士に聞いてみよう!」を連載する木村聡子税理士(東京・世田谷区)は、「事業継続の見地から必要な税制であり、利用のハードルは高くなく、かつ使い勝手が良い」と、ニーズの高い特例であり、実務上で重宝していると話す。

耐震・省エネ改修税制は盛りだくさん

 国交省は税制改正要望で、既存住宅の耐震・省エネ改修に掛かる特例措置の拡充も求めた。耐震・省エネ改修とあわせて住宅の耐久性を高めるための改修をして、増改築による「長期優良住宅」の認定を受けたときの所得税の税額控除額につき、これまでの額にさらに10 万円程度を加算するというもの。あわせて固定資産税の減額割合も拡充するよう要望した。

 

 これ以外にも、住宅に関する最近の各種政策を見ていくと、国がリフォームをした人への負担軽減策を増やそうとしていることが分かる。

 

 臨時国会では、40歳未満の若年層が中古住宅を購入し、住宅の劣化具合を調査してリフォームすると最大で50万円、さらに耐震改修を上乗せすると補助額が最大65万円となる制度創設の可否が議論される。初めてマイホームを取得する層の購入意欲を後押しする狙いだ。年齢制限のない支援制度の創設も予定されており、購入した中古住宅をリフォームすると最大30万円、同時に耐震改修を行えば最大45万円が補助される見通しだ。

 

 リフォーム税制としては、今年の税制改正で、少子化対策の一環として、三世代同居を目的とする改修への税優遇制度が創設されている。税優遇の対象となる工事は、①キッチン、②浴室、③トイレ、④玄関――のうち2つ以上を複数にするためのリフォームだ。優遇内容は、リフォーム工事のためにローンを組んだときと、一括払いで支払ったときで分かれる。ローンを組んだ場合は、250万円を上限とする工事費用のうち2%が、所得税額から5年間にわたって控除される。一括払いで工事費用を支払った場合は、250万円を上限とする費用のうち10%に当たる金額を、その年の所得税額から控除する。

 

 住宅リフォームをした人への負担軽減措置が増えてきた背景には、住宅流通やリフォーム市場を活性化させようという国の狙いがあるようだ。不動産関連税制は個人や法人の財産に大きな影響を与える。制度を知らないがために損をすることのないよう、概要をきちんと把握しておきたい。

(2016/10/06更新)