銀行融資は借り得?

据置期間が異例の長期化


 数カ月から1年程度が一般的だった元本の返済猶予期間(据置期間)が、コロナ禍の融資では5年間という長期の契約も結ばれるようになっている。猶予によって返済の時期を遅らせることができれば当面は負担がなくなるが、注意が必要なのは期間後の支払額が重くなる可能性があることだ。過去には、災害発生に伴う借り入れの据置期間が終わった後に、返済の重負担に耐え切れず倒産した事業者もあった。融資を受ける際、返済猶予期間を意識したか否かで事業者の資金繰りが大きく変わることになりそうだ。


 金融機関が元本返済を猶予する期間は「据置期間」と呼ばれ、設備資金や創業資金を借り入れる際に、1年以内で契約することが通例となっている。新型コロナの感染拡大の影響で多くの事業者の資金繰りが悪化している中で、被害を受けた事業者を対象とした特別融資などでは、据置期間が通常と比べて長い契約が結ばれている。中には5年という異例の長期契約を結んでいる事業者も出ている。

 

 金融機関としては、据置期間が長期になるほど資金の回収が遅れるので、できる限り短い期間にしたいという本音がある。金融コンサルタントの上田真一氏(広島市)はその点について、「そもそも5年後まで新型コロナの影響が及ぶとは限らない。2〜3年後に収束して返済できる財務状況になる可能性もあるのに、銀行としては4年や5年の長期の契約を結ぶ必要性を感じにくい」というのが金融機関の本心ではないかと推察する。しかし国から度重なる要請を受けたため、5年を限度に長期の返済猶予を認めざるを得ない状況になってきたというのが実情であるようだ。

 

 これは、国の判断次第で据置期間の長短が変わっていくことを意味する。すなわち新型コロナが収束して長期の据置期間は不要と国が判断すれば、以前のように短い期間での契約しか結べなくなるということになる。そのため当面の支払いが困難な事業者は、今のうちに借り入れておかないと、長期の据置期間で契約できなくなる可能性がある。

 

返済期間の延長も忘れずに

 ただ注意が必要なのは、据置期間を設定する際には、あくまでも元本の返済が一定期間猶予されるだけという点だ。期限が過ぎた段階で返済の負担が圧し掛からないように考慮したい。

 

 東日本大震災では、今回の特別融資と類似した貸付制度を利用した事業者が、据置期間の終了後に元本返済に苦しむということがあったため、今回のコロナ禍でも同じようなケースが起きるおそれがある。

 

 帝国データバンクの調査によると、東日本大震災を原因とした倒産は震災2年目から減少したものの、直近の1年間だけでも50件発生している状況となっている。震災後に金融機関の支援を受けて事業を継続してきた事業者が、事業を立て直すことができず資金不足に陥って倒産しているケースが後を絶たないのだ。

 

 据置期間が長期の契約では、元本返済時の負担が短期の場合と比べてどのように違ってくるのだろうか。6年で返済する契約で720万円を借り入れていた場合、据置期間がなければ、元本分の毎月の返済額は単純計算で10万円(=720万円÷72カ月)となる。この契約で1年の据置期間を設定したとすると、1年目の支払いはゼロになるが、2年目から6年目までの5年間の返済額は毎月12万円(=720万円÷60カ月)に引き上がってしまう。

 

無審査で延長の事例も

 後々の負担を減らすには、据置期間だけではなく、完済するまでの期間(返済期間)についても長期の契約とするほかない。その実例として、コロナ関連融資に関する金融庁の報告書には、既存の借入について据置期間を2年から5年に延長したうえ返済期間も10年から15年へと延ばすことができた事業者の例が紹介されている。

 

 やはり、通常時と比べて長い据置期間が設定しやすくなっているのは間違いない。金融庁の報告書には、3カ月までなら無審査で据置期間と返済期間の延長を認める金融機関や、2年以内であれば本部の決済を経ずに支店長専決権限で猶予を認める金融機関があることが報告されている。数カ月から2年程度であれば本格的な審査を経ないでも元本の返済猶予を受けられるようになっている状況だ。

 

 感染拡大の影響で当面の資金繰りに不安がある事業者は、通常時の融資の常識にとらわれることなく、長期の据置期間・返済期間など有利な条件で契約できる現状を認識し、銀行と交渉に臨むようにしたい。

(2020/07/29更新)