総務省がボロ負けした理由

ふるさと納税めぐり国が逆転敗訴


 ふるさと納税の返礼品を巡る国と大阪府泉佐野市の争いで、司法は泉佐野市に軍配を上げた。最高裁はこのほど、総務省が泉佐野市ら4自治体を制度から除外したことを「違法で無効」として、除外決定の全面的な取り消しを命じた。国中が注目した裁判で総務省が〝ボロ負け〞の醜態をさらしたのは、なぜなのか。これまでの経緯を踏まえれば、総務省の決定に筋が通っていないと判断されるのは当然の流れだったかもしれない。


 最高裁第3小法廷の宮崎裕子裁判長は、国が泉佐野市ら4自治体をふるさと納税から除外した決定について、「昨年6月の改正法施行前に返礼品の提供について定める法令上の規制は存在せず、同年4月に出した(返礼品ルールを定めた)告示も、改正法施行前の実績によって適格性を欠くと解するのは困難だ」と述べた。その上で、裁判官全員の一致した意見として、「告示を理由とした除外は違法で無効だ」と結論付けた。

 

 判決を受けて千代松大耕泉佐野市長は、「主張が全面的に認められて嬉しい。地方自治にとって新しい一歩」とコメントした。一方、高市早苗総務相と、制度の生みの親でもある菅義偉官房長官は「判決に沿って対応していく」と述べるにとどめた。

 

 今回の判決は、ふるさと納税制度そのものに穴があり、それを強権的な手法でふさごうとした総務省のやり方は違法だったというものだ。押さえつけられた泉佐野市、和歌山県高野町、静岡県小山町、佐賀県みやき町に対して総務省は謝罪しなければならず、また総務省の要請に従って返礼品を見直し、泉佐野市らに寄付金を持っていかれる形となってしまった他の自治体に対しては申し開きのしようもないだろう。

 

ずさんな運用 見えていた結末

 一方、判決では補足意見として、「泉佐野市の返礼品提供は社会通念上、節度を欠いていたと評価されてもやむを得ない」と指摘した。しかし本当にそうだろうか。

 

 ふるさと納税は2009年に、住んでいる土地に納める税金を別の土地に寄付という形で移す制度として始まった。返礼品は制度にこそ組み込まれていなかったものの、制度としてそもそも〝競争〞を促す仕組みになっていたわけだ。

 

 12年に第2次安倍政権がスタートしてからは、「やる気のある地方を応援するのが、安倍内閣の『地方創生』だ」(安倍首相)と自治体の自助努力を強く求めたこともあり、返礼品競争は一層熱を帯びた。

 

 最初に多くの寄付金を集めたのは、肉や魚介など魅力ある特産品を持つ自治体だった。そうした自治体に負けまいと、地場産でない返礼品を扱い出したのが、泉佐野市をはじめとする、目立つ特産品を持たない自治体だったといえる。

 

 そして競争が過熱していくなかで、換金性の高い商品券、貴金属などを返礼品とする自治体が出始めた。なかには個人の脱税につながりかねない事案もあり、それらの返礼品に問題がなかったとはいえない。

 

 しかし、それらの問題が浮上し始めたのは14年ごろからで、今日に至るまで総務省が軌道修正をする時間はいくらでもあった。にもかかわらず総務省が採ったのは「要請」だけで自主規制を求めるという手法だった。

 

 総務省としては、地方自治の原則に則り、あくまで「自治体の良識に委ねた」というつもりかもしれない。だがそれは、最近の新型コロナウイルスを巡る「自粛要請」と同じ〝丸投げ〞にすぎない。要請の形をとって判断は相手に任せながら責任を取るつもりはない。にもかかわらず「要請に応じない」と相手を批判する姿は、まさに新型コロナを巡る国の姿勢と同じだ。そうした総務省のやり方を最高裁が「根拠がなく無効」と判断するのは、ごく自然な話に思える。

 

「そもそも制度がゼロサムゲーム」

 判決の補足意見では、ふるさと納税は「そもそも税収の総額を増加させるものではなく、端的に言って、限られた税収を取り合うゼロサムゲームだ」との声もあった。指摘のとおり、新制度に変わったふるさと納税は、目立つ地場産品を持つ自治体が強いという元の構図に戻っている。勝ち組が泉佐野市から別の自治体に変わっただけともいえる。

 

 そして総務省が放置してきた制度の穴は、より歪んだ形で顕在化しつつある。高知県奈半利町では6月、寄付者に対して送る返礼品について総務省に虚偽の報告をしていたことが明らかになった。返礼率3割以下と報告しながら、実際にはほぼ全ての返礼品で3割を超えていた。また納入業者に対して、調達費を梱包手数料などに付け替えるよう指示していたという。これらの偽装された豪華返礼品を利用して、同町は17年度に全国9位となる39億円の寄付を集めていた。

 

 あれだけ泉佐野市を名指しで批判した総務省だが、奈半利町に対しては疑惑が浮上した5月の時点で「事実関係の把握をしている。事実であれば大変残念」としかコメントしていない。悪質な不正という点を踏まえれば、泉佐野市以上に毅然とした対応をとらなければ中途半端だったと言わざるを得ない。

 

 ルールに抵触しない形でも、自治体の〝工夫〞は行われている。ある自治体では、3割規制が設けられたタイミングで、返礼品調達費の計算方法を「原価+事業者の利益」から「原価のみ」に改め、規制前と同じ返礼品を送っているという。こうした〝工夫〞がどれだけの自治体で行われているかは不明だ。

 

 総務省は返礼品競争について、ルールを徹底した新制度によって今は解決済みという立場だ。しかし、地方自治をうたいながら実際には泉佐野市を違法なルールで押さえつけるような姿勢を根本的に改めないかぎり、またいつか同じような対立が起きる可能性は十分にあるだろう。

(2020/08/04更新)