税務署からの呼び出しでビックリ

うっかり贈与に要注意

何気ないプレゼントに課税


 この年末に子や孫へ財産を贈与したひともいることだろう。毎年、年末になると節税や相続対策としての「駆け込み贈与」が増える傾向にある。長期的な計画に基づく贈与であれば何も問題はないが、そのつもりがなく、何気なく妻や子どもにプレゼントしたものが贈与と認定されて予想していなかった税負担を課される「うっかり贈与」も散見される。渡し方さえ間違えなければ無税で引き継げる財産に税金がかかるのはあまりにももったいない。うっかり贈与の起きやすいポイントと対策を探る。


 贈与税は、年間110万円を超える財産をもらった人が、その額に応じた税率に従って納める税金だ。申告期限は財産をもらった翌年の確定申告期となる。例えば今年もらった財産にかかる贈与税は来年2月1日〜3月15日に納めなければならない。

 

 贈与税負担を前提にした計画的なものであればいいが、贈与したつもりはないのに贈与と認定されて税を課されてしまうケースがある。俗に「うっかり贈与」と呼ばれるもので、贈った本人としてはちょっとしたプレゼントや、妻や子の名義を借りただけのつもりでも、ある日税務署から贈与税の申告についての問い合わせがあって仰天することもあるようだ。そして、うっかり贈与の判断が難しいのは、単純に金額などの表面的な要素だけで課税か非課税かが決まるのではなく、どのような形での財産の受け渡しかによって決まるところにある。

放置すると重い税負担

 神奈川県の会社経営者の斎藤茂男さん(仮名)は、娘の結婚に当たって「新婚旅行を楽しんでこい」と現金600万円をプレゼントしたところ、知人の税理士に「それだと娘さんに贈与税が課せられてしまう」と注意されたという。

 

 これが結婚式費用であれば、一般的に式は本人たちだけでなく親のためでもあると考えられるので贈与税の対象とはならない。また新居への引っ越し費用としてまとまった額をプレゼントすることは本来は贈与に当たりかねないが、昨年スタートした「結婚・子育て資金の一括贈与の非課税特例」の対象となるため、課税対象となる額を大幅に抑えることができる。しかし新婚旅行代は本人のための費用であり、また特例の対象にもなっていないため、全額が贈与税の対象となってしまう。

 

 このケースでは、斎藤さんは600万円を新婚旅行ではなく結婚式の費用として充てるよう娘に伝え、贈与税を回避した。同じ600万円でも、何に使うかで課税の可否が分かれるわけだ。

 

 また、よくあるのが保険の受取人の名義による贈与認定だ。東京で会社を経営する西野法大さん(仮名)は、30年前に定期の生命保険に入り、満期時の保険金受取人には深く考えずに妻の名前を記入した。生命保険の満期が近づいたころ、たまたま友人の保険外務員から、そのまま保険金を受け取れば贈与税が妻に課されると伝えられ驚いたという。

 

 生命保険は、契約者と保険金受取人との関係によって課税関係が変わり、契約者が夫、受取人が妻なら、保険金は夫から妻への贈与とみなされて贈与税が課せられる。もし契約者も受取人も夫であれば、保険金は夫の一時所得となる。夫には所得税が課されるが、一時所得では特別控除50万円を差し引いた額の2分の1が課税対象となるのに対し、贈与税では基礎控除110万円を差し引いた後の全額が課税対象となり、税率も贈与税のほうが格段に高く設定されているため、税負担には大きな差が生じるわけだ。

 

 西野さんはすぐに受取人を自分に変更したが、もし気付かないまま満期を迎えていたら、何百万円にもなる税額を課されていただろう。

 

反面調査で贈与の事実を把握

 気を付けたいのは、贈与税の対象となるのは現金や保険金だけではない点だ。車や宝石など高額な財産のプレゼントはすべて対象となり、そして国税は現金や物品にかかわらず、贈与の事実をどこからともなく把握し、「お尋ね」と呼ばれる文書を送ってくる。

 

 埼玉県の医師の北条勘太郎さん(仮名)のケースでは、医大に合格した息子に合格祝いとして自動車をプレゼントしてやり、購入に当たっては特に意図もなく息子名義で車検の申請をしたところ、数カ月後、税務署から車の購入についての「お尋ね」が送られてきたという。購入資金を誰が負担したのか、親が出したのであれば贈与税の申告をしてほしいという内容だ。

 

 贈与税は金銭に限らず、年間110万円以上の財産をもらえば税負担が生じる。そして税務署は定期的に陸運局で車検の名義をチェックし、「学生が自己資金で車を買えるはずない」と判断すれば「お尋ね」を送る。ディーラーに問い合わせて、売られた車の名義を調べることもあるという。宝石ならば、定期的にデパートや宝石商などに出向き、優良顧客や高額取引のリストを作成し、小売店の売上伝票を反面調査することで、贈与の事実を把握するわけだ。贈与税の税額は高額なだけに、あらゆる財産に対して国税がかなり厳しく目を光らせていると考えて間違いないだろう。

 

 もし贈与が「あった」と認定されれば、その翌年の2〜3月には申告期限がやってくる。課税されるかどうか微妙な出費や、疑いを招きかねないプレゼントがあるのなら、その年のうちに何らかの対策を講じなければならない。うっかり贈与に注意したい。

(2017/01/02更新)