税制が中小淘汰を後押し

コロナ対策やDXで優遇策


 2021年度税制改正大綱が閣議決定された。大綱は税制改正法案の原案となり、通常国会に提出される。菅義偉首相の就任後初の税制改正は新型コロナウイルス対策、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が中心である一方で、中小事業者の再編・統合を進めるという菅首相の意向を色濃く反映した内容になっている。


 今年の税制改正大綱は、例年とは違った様相を呈している。それは7年8カ月という長期政権が交代した後での税制改正の論議だったということだけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大で落ち込む経済をいかに再生させるかという至上命題を課せられていたからだ。

 

 今回の大綱でやはり目に付くのは、新型コロナ対策での消費喚起の項目が並んでいるという点だ。

 

 まず固定資産税の負担増が回避されたことは土地所有者にとって好材料だ。感染拡大の前に上昇した地価をもとに算定すれば、土地所有者の固定資産税負担が増すことから、大きな懸案事項となっていた。そこで最も大きな影響が見込まれる商業地だけではなく、住宅地や農地も含めた全ての地目で、負担増を1年凍結することになった。減税予定の土地は、そのまま引き下げる。

 

 住宅ローン減税の拡充策も期限を延長する。住宅ローン減税は10年間にわたり、毎年末の住宅ローン残高の1%を所得税や住民税から控除する仕組みだ。消費税増税対策で、控除期間を13年間に拡充する特例を設けたが、新型コロナの影響で住宅の建設や入居に遅れが出た場合以外は、20年末までの入居が条件となっていた。

 

 そこで適用期間を通常の10 年より長い13年としている措置に関して、原則として20年末までと設定していた入居期限を22年末まで延長。新築住宅は21年9月末、マンションや中古住宅は同11月末までに契約することを条件にする。加えて、対象となる床面積についても「50平方メートル以上」から「40平方メートル以上」に対象を拡大した。

 

 ただし、狭い物件を対象に加えると、居住用として住宅ローン減税の適用を受けてマンションを購入したにもかかわらず、投資用に転用するケースが出てくるとの懸念があることから、40平方メートル以上50平方メートル未満の物件については年間所得1千万円以下とする所得制限を設けることになった。現在は50平方メートル以上で所得3千万円以下としているので、注意が必要になる。

 

経営難で法人税率引き下げ

 住宅取得資金の贈与を受けた際に、一定額まで贈与税を非課税とする措置については、2021年末まで上限を1500万円に据え置くこととした。当初は21年4月以降に1200万円へ縮小する予定だったが、新型コロナ感染拡大で伸び悩む住宅需要を下支えする必要があると判断した。非課税措置は親や祖父母が子や孫へ住宅資金を贈与する場合に適用を受けられる。耐震などの性能に優れた住宅は1500万円、一般住宅は1千万円が上限。一般住宅は21年4月以降、800万円へ引き下げる予定だったが、これも据え置かれることになった。

 

 贈与に関しては、親や祖父母から子や孫に教育資金を一括贈与した場合1500万円まで非課税になる制度も、21年3月末までの期限を2年間延長する。ただし孫へ教育資金を贈与後3年が経過していれば、祖父母が死亡しても残額は相続税の対象にならないルールの運用が厳格化された。

 

 また、資産を多く持つ経営者が、将来の相続を見据えて最初に検討する110万円の暦年贈与が廃止される動きがあったが、「あり方を見直すなど(中略)本格的な検討を進める」と記されるにとどまった。

 

 住宅ローン減税と同様、今春期限を迎える予定となっていた環境性能割の軽減措置は21年末まで、エコカー減税は23年末まで、それぞれ延長される。

 

 新型コロナの感染拡大で経営に苦しむ中小事業者を支えるための改正項目にも触れておきたい。資本金が1億円以下の中小事業者の法人税率は2段階の刻みで、課税所得が年800万円を超える部分は23・2%、800万円以下の部分は19%が原則だ。現在は大企業の子会社などを除いて、19%の部分を特例で15%に引き下げている。現行制度は21年3月31日までに事業年度が終了する中小事業者が対象となっているが、この期限を延長することになった。

 

 また研究開発費に応じた法人税額の優遇措置を時限的に拡充する。新型コロナの影響で売り上げが減少した事業者を対象に、本来の法人税額から差し引ける割合の控除上限を現在の25%から30%に引き上げる。

 

 そして事業者が省エネに役立つ製品の生産設備に投資した際、投資額の最大10%を法人税額から差し引く。環境分野でのイノベーションを加速させ日本企業の国際競争力を向上させたい考えだという。

 

30万社超が廃業危機!

 菅義偉首相の就任後初の税制改正で大きな目玉としているのがデジタル技術で既存制度を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)関連の研究開発減税の拡充だ。コロナ禍で顕在化したデジタル化の遅れを解消するために、データを事業所外に蓄積して利用する「クラウド」サービスの導入を行うなどしたケースを対象とする。条件を満たしているか判断する際には、情報処理促進法に基づき、DX推進の準備が整っている事業者を国が認定する制度を活用。対象となるデジタル投資のうち、グループ以外の事業者とも取引情報などのデータ連携・共有を行えるようにした場合は法人税額から最大5%を控除。税額控除ではなく、30%の特別償却による税負担軽減も選択できる。

 

 新型コロナ、デジタル化に加えて、菅政権が推し進めようとする中小再編を促す改正項目が多く盛り込まれている点も見逃せない。中小事業者の統合や事業再編を後押しするため、合併・買収(M&A)後の想定外の損失に対応できるよう、買収費用の一部を税優遇し、約5年間は手元の資金を手厚くする。相乗効果を高められるように設備投資額の最大10%を法人税から控除する。中小事業者が買収による生産性向上や、買収後の雇用の配慮を盛り込んだ計画を作り、政府から認められると税優遇を受けられるという仕組みだ。

 

 政府が21年の通常国会に中小企業等経営強化法の改正案を提出し、中小の再編計画を認定する仕組みをつくり、買収時のリスクを軽減するための準備金制度を新設する。M&Aでは、買収後に隠れた簿外債務などが発覚するリスクがある。買収先が過去に粉飾決算をしていて回収できない売掛金が後に判明するといったことも起こり得る。

 

 こうしたリスク面を考慮し、買収に二の足を踏むケースがあることから、買収費用の一部を準備金として積み立てると、これを税務上の損金に算入できるようにする。法人税の課税対象となる所得(税務上の利益)が減り、負担が抑えられるという算段だ。5年後からは課税対象となる益金に算入していく。システム統合などの設備投資も、投資額の最大10%を法人税から税額控除できるようにする。資本金が3千万円超の場合の控除率は7%となる。

 

 買収後の雇用の継続を促す制度も導入。買収先の従業員を雇い、給与などの総額を前年から一定割合以上増やせば優遇する。給与総額を1・5%以上引き上げた場合は、その増加額の15%、2・5%以上の場合は25%の税額控除を認める。

 

 また、自社株M&Aへの税優遇を拡充する。これは事業の売買の際に、買う側が現金ではなく自社株を渡すケースを対象とする。手元に現金がなくても買収を行えるため、M&Aがしやすくなる。しかし、受け取った側は譲渡益に所得税が課税されるため、買収をためらうケースが少なくなかった。18年に譲渡益に対して課税を繰り延べる特例が創設されており、国が計画認定した再編案件にのみ税優遇が認められている。しかし、使い勝手が悪く、利用が進んでいなかった。

 

 税制改正大綱に中小企業の再編・統合を促す改正項目が盛り込まれたことで、体力のない中小が吸収される形での再編が加速することも考えられる。経済が成長し、市場が拡大しているときなら、その痛みも吸収しやすいかもしれないが、コロナの渦中にあって経済が傷んでいるときにこれを進めると、廃業、倒産の増加によって多くの失業者を発生させかねない。

 

 東京商工リサーチによれば、コロナ感染が長引いた場合、廃業を検討する可能性がある中小企業は8・8%に上る。これは30万社超が廃業の危機に瀕していると言える数字だ。追加の経済対策でも巨額の国土強靱化費用(5年で15兆円)が盛り込まれた一方で、持続化給付金や家賃支援給付金は打ち切られた。

 

 新設された「事業再構築補助金」は中小事業者の業態転換や新規事業への進出が条件で、支援対象を絞り込んだ格好となっている。新型コロナの収束が見通せない中で中小の淘汰が進めば、地域経済や雇用への影響も無視できない。

(2021/01/28更新)