相続増税で注目

書面添付、5年で倍増

税務調査の防波堤になるのか?


 税務申告にあたり、税理士が申告書を補強するための資料を添える「書面添付制度」がにわかに注目されている。きっかけは2015年1月施行の改正相続税法で、最高税率の引き上げと同時に、課税対象者の範囲が格段に広げられたことによる。一定の書類を税理士に添えてもらうことで申告書の精度が上がり、税務調査に至る前に税理士が防波堤になって実地調査を食い止め、さらに金融機関の融資条件が有利になるなどの〝特典〞が期待されている。


 税務申告書に記載された内容につき、その根拠や計算方法などを記した書面を添付する「書面添付制度」は、今から60年前の1956(昭和31)年、改正税理士法で創設された。2001(平成13)年の改正では、書面添付された申告書の内容について税務当局が調査を行うにあたり、納税者への事前通知に先立って担当税理士に意見聴取の場を設けるルールが新設された。これにより、当局が抱いた申告書への疑問が納税者に直接ぶつけられる前に、税理士が防波堤となって〝解決〞が図られることになった。

 

 納税者にとっては実際に事務所や自宅に税務職員が訪れるという煩わしさを未然に防げるとともに、当局としても事前通知をはじめとする諸々の手続きを省略して申告書の詳細について把握できることから、双方にメリットの大きい改正となったようだ。

 

 また、制度は税理士に認められた「権利」とされていることから、税理士会では制度の普及に力を入れ、国税庁とともに利用促進を訴えてきている。

 

税理士の大半は無償奉仕

 だが、そうした官民挙げての広報活動にもかかわらず、一般社会で市民権を得ることはなく60年という長い月日が虚しく流れてきた。これは、当局や税理士会の思惑通りにはならない、実際に添付書類を作成する一般税理士側の事情によるところが大きい。

 

 昨年末に東京税理士会が行った会員向けのアンケートによると、書面添付を行ったと回答があった所得税、法人税、相続・贈与税の合計1万3442件のうち、書面添付の分の報酬を別途請求できたのはわずか2・5%の338件にとどまっている。

 

 税理士会が会員向けに発行している書面添付のリーフレットのQ&Aには、「顧問先の経営状況が向上すればいずれは利益につながる」と、無償奉仕もやぶさかではないとする〝回答〞が掲載されているが、どうみても説得力に欠ける。もちろん、そうした殊勝な心構えの先生も多いものの、ほとんどは「タダではやれない」(都内の税理士)というのが本音のようだ。

 

 加えて、「調査が省けるかもしれないという不確かな情報だけでお金を払ってもらって、そしてこちらも労力を使って、それで調査に発展したときには目も当てられない」(神奈川県の税理士)という声も聞かれた。調査を省けるメリット以上に、そうしたリスクを考えたら、最初から「なかったこととして顧問先には制度自体を知らせない」(同)という選択も税理士の立場上はあるようだ。

 

 さらに、都内の別の税理士は「本当に調査がなくなってしまったら、調査立ち合いにかかる報酬がもらえなくなるので困る。ただでさえ記帳代行の価値が下がっているのだから数年に一度の調査が頼みの綱」と〝正直〞な思いを語っている。

 

備忘録あるいは確認書の意味も

 現場の税理士のそれぞれの思惑から普及に歯止めがかかってきた書面添付制度だが、一昨年の相続増税以降、相続税申告に関してはにわかに注目され始めている。

 

 国税庁の実績評価書によると、2010年に5・6%だった相続税申告での書面添付率は、11年には6・5%、12年7・3%、13年8・9%、14年11・8%と上昇し、15年には13・6%と、5年で2・4倍もの伸びを見せている。

 

 これについて資産税に特化する都内の大手会計事務所代表は、「相続増税の影響は明らかで、納税者と税理士の双方のニーズが合致した結果の表れではないか」と分析する。

 

 相続税は額が大きいだけに納税者と税理士双方にとって非常に恐い税金だ。しかも調査は申告期限から数年経った頃にやってくるため、詳細について税理士も覚えていないことがあるという。また顧客との信頼関係が時間とともに薄れていることもあり得るだろう。そのため、「調査対策の備忘録、あるいは顧客との確認書の意味もある」(同)という。これは納税者にとってもプラスになることだろう。

 

 国税庁では近年、消費税、海外資産、相続、富裕層を重点キーワードと位置づけて調査を行っていくとしている。これら4点は取りも直さず大口案件ということになる。納税者としては痛くもない腹を探られることも十分に想定し、あらゆる準備をしておきたい。

 

 書面添付制度は税務調査を回避する「可能性があるとされている」もので、そのメリットは絶対のものではない。決して万能薬ではないのだが、それでも万が一にも調査を避けられるなら、それにこしたことはない。メリット、デメリット、リスクなど、税理士と十分に話し合って検討してみるべきだろう。もちろん、税理士という税務のプロが動くからには報酬を考慮するべきだ。

(2017/03/03更新)