渡哲也さんに学ぶ会社の終活

スマートな事業整理


 昭和の名優・石原裕次郎さんが設立し、数々のヒット作を生み出してきた石原プロモーションが来年1月16日、58年の歴史に幕を下ろす。30 年以上前に裕次郎さんが残した「俺が死んだら即会社をたたみなさい」との遺言をようやく実行できることになりそうだ。石原プロは、俳優のマネジメントをはじめ、音楽や映像遺品に関する肖像権など、多くの業務にまつわる権利を有しているが、それらの全てについて事業整理の道筋をつけていたのが、解散発表の1カ月後に死去した渡哲也さんだったという。事業の縮小や不採算部門の整理はこれから多くの中小事業者でも起きるものと予想される。石原プロの複雑な事業をスマートに整理した渡さんの手腕から学んでみる。


 石原プロは、主要業務である俳優のマネジメントを来年の早い段階で終了し、石原プロに所属する俳優たち、いわゆる「石原軍団」は実質的に解散することになるという。裕次郎さん亡き後、長年にわたり石原プロを社長として引っ張ってきた渡さんは、生前に一部の関連会社の清算を済ませていたほか、版権管理を別の法人に移管するなど、着実に解散への道筋をつけてきた。

 

 渡さんは「西部警察」などの代表作を持つ俳優であるとともに、経営者としても芸能業界に深くかかわってきた。1971年に石原プロモーションに入社し、裕次郎さんが死去した87年に二代目社長に就任。2001年に健康上の理由で代表の座を退いたものの、17年には相談役兼取締役として経営に復帰していた。

 

 相談役への復帰は、石原プロの解散を視野に入れたもので、今年7月の解散発表にこぎつけたのも渡さんの手腕によるところが大きいと言われている。解散に向けては、生前に複数の関連法人の廃業・合併の手続きを済ませたほか、裕次郎さんの音楽や映像遺品、また肖像権の管理などの業務は既存の関連法人に移管した。その他の遺品の維持や管理業務は新たに立ち上げる社団法人が担うことが決まっている。

 

 3年の月日をかけて腰を据えて準備を進めてきたことが、事業のスマートな整理の成功につながったのだろう。事業の承継も整理も、決して思い付きでうまくはいかない。

 

腰を据えた準備が成功の鍵

 事業のたたみかたには、大きく分けて倒産と廃業のふたつがある。倒産は資金繰りの悪化などによって事業を継続したくても不可能になった状態を指し、弁護士などの専門家の力を借りて会社経営を終わらせることになる。

 

 同じ経営者が複数の会社を経営している場合、ひとつの会社だけを破産手続きによって倒産させることも可能だが、関連会社に資産を移したうえでの計画倒産を疑われるおそれがあるので、専門家に相談しながら慎重に進める必要がある。

 

 一方の廃業は、あくまでも自主的に経営を止めるもので、必ずしも外部の専門家に頼る必要はない。廃業の道を選ぶ場合は、財務状態を正確に把握したうえで、未払いとなっている給与や買掛金、銀行からの借入などの借金を清算する。また従業員への転職のあっせんに努めることも大切だ。最終的には決算をきちんと行って税金を支払い、法的な手続きに従って登記を消すことになる。

 

 なお、会社の解散に伴って取締役という役職はなくなり、清算人が清算事務を行うことになる。中小企業であれば、取締役がそのまま清算人に就任することも多い。このとき、清算人に対して報酬や退職金を支払うことも認められている。

 

M&Aも選択肢のひとつに

 このほか、関連法人が売上を見込めないような状態の場合、会社をたたむという選択肢の他に、会社を「休眠」の状態にすることもある。新型コロナが収束した後など、将来的に事業を再開することを視野に入れているのであれば、一度解散して新たに会社を立ち上げるよりも、負担を大きく軽減できる休眠を選択肢に入れておきたい。

 

 会社が休眠状態であっても、法人としての登記が残っている以上、税務申告は必要だ。青色申告制度や欠損金がある場合の繰越控除は、税務申告を続けていないと適用できなくなってしまう。

 

 また、税金面で別に注意が必要なのは、休眠することを異動届出書などの書類によって自治体に伝えておかないと、法人住民税の均等割が課税されてしまうということだ。均等割は会社が解散していない限り原則として支払う必要があるものだが、届出書によって課税を免れることが可能となる。

 

 また、休眠中でも役員改選は必要で、これを怠ると金銭的なペナルティーの対象となるおそれがある。登記内容の変更がないなど、企業活動を継続していないと行政に判断される状態だと、最後に登記があった日から12年が経過した時点で法務大臣の判断により解散したものとみなされてしまうので注意が必要となる。

 

 多くの中小企業が後継者不在に悩む中で、不採算事業の切り離しは避けることができないだろう。事業の整理は、廃業だけではなくM&Aという選択肢もある。石原プロの解散のように慎重に検討を重ね、確実な道筋をつけておきたい。

(2020/10/05更新)