消費税8%➡10%

ささやかれる「三度目の延期」

不祥事連発で弱り目の財務省


 まさかの三度目の延期があるかもしれない――。たび重なる不祥事で増税派の〝総本山〞だった財務省の立場が弱まったことで、三度目の消費増税延期がささやかれ始めている。前回の延期の際には「景気状況によって増税を判断する」という条項を削除してまで不退転の決意を示した安倍政権だったが、法人減税による景気刺激策が思うように効果を発揮しないなか、増税が経済に決定的なダメージを与えてしまうのではないかとの懸念もあるようだ。もし三度目の延期があれば、増税を前提として進められているさまざまな予定は変更を余儀なくされ、消費税以外の税制にも大きな影響が出る。企業はこの不透明な状況のなか、どちらに転んでもよいよう対策を講じなければならない。


 「財政というのは、負担する人も給付を受ける人も国民だ。(財政の)管理人である財務省に『問題』があるからといって、増税をやめるとか考え方を変えるというのは国民にとって良くない」

 

 女性記者へのセクハラ疑惑を報じられた福田淳一前財務事務次官は、辞意を表明した直後の4月18日の会見でこう語った。福田氏は疑惑自体については否定しながらも「職責を果たすのが困難な状況になっている」として辞任を申し出て、4月24日の閣議で了承された。

 

 国家の財政運営を一手に握り、〝最強官庁〞と呼ばれてきた財務省が、すっかり弱り切っている。その理由の一つは、もちろん学校法人森友学園への公有地売却を巡る一連の問題だ。記録文書の隠匿や改ざんが明らかになり、真相究明の過程で当時の理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官の答弁や財務省の対応のまずさもあった。さらに、問題が大きくなった時期に佐川氏が国民から税金を徴収する組織のトップであったこと、それを麻生太郎財務相が「適材適所」などと評価したことも問題を大きくした。

 

 福田前事務次官と佐川前長官がそろって任期途中で辞任したことで、現在の財務省は、税金の徴収を司る組織と、その税金を配分する組織の次官級がそろって不在という状態になっている。相次ぐ不祥事に対して「財務省を一度解体すべし」との声まで出ていて、最強官庁と呼ばれた権威は見る陰もなくなってしまったのが現状だ。

 

 国家の金庫番である財務省の弱体化は国の政策にも多大な影響を与えるが、特に影響が大きいのが、同省が先頭に立って主張してきた来年10月に予定される10%への消費税増税だ。冒頭の発言で福田氏は、財務省の不祥事と政策としての増税判断は切り離して考えるべきだと訴えたが、そうした発言が出ること自体、霞が関で増税延期が一定の現実味を帯びつつあることの証左に他ならない。

 

他の税への影響不可避

 10%への消費税増税はすでに二度延期されている。そもそも10%への増税が決まったのは、2012年の民主党政権下で取り決められた「社会保障と税の一体改革」だ。自民党も合意していたため、政権が交代しても方針は維持され、実際に14年4月に税率はまず8%に引き上げられた。本来であれば、その後、間をおかずに15年10月に10%に増税される予定だったが、安倍晋三首相は景気回復を優先して延期を決断、増税時期は1年半先送りにされて17年4月となった。これが一度目の延期だ。

 

 ところが政権の思惑どおりにはいかず、その後も経済は思うように回復しなかった。株高や不動産価格の上昇は見られたが、肝心の個人消費が一向に伸びなかったため、そのまま増税を実行すると景気が腰折れするとの懸念から、安倍首相は増税関連法に附則として盛り込まれていた「景気条項」を適用し、二度目の延期を決めた。

 

 そして増税時期を19年10月と定め、景気条項を削除して三度目の延期はないとの決意を示した。その後、19年の増税は「確実にあるもの」として、複数税率対応の補助金申請や、Q&Aなどの資料作成といった様々な準備が粛々と進められてきた。

 

 消費税の増税時期とタイミングを合わせて見直しが行われる予定の税制もある。代表的なものは飲食料品などとそれ以外で税率を分ける複数税率制度の導入だが、それ以外に増税後の景気刺激策として用意されているものもあり、住宅資金贈与の非課税特例では増税と同時の大幅な非課税枠の拡大を予定している。非課税枠は現行1200万円が上限だが、これが10%時には3千万円に拡大される。

 

 また自動車関連税制でも、増税と同時に行われるはずだった取得税の廃止と新たな「環境性能割」の導入が、増税延期に合わせてのびのびとなっている。消費税増税は多くの税目に影響を及ぼすだけに、19年10月の増税は、覆しようのない〝決定事項〞のはずだった。

 

「二度あることは三度ある」

 しかしここに来て、19年10月の増税も雲行きが怪しくなりつつある。背景には増税を声高に主張してきた財務省の弱体化もあるが、それだけではない。かつての二度の延期と同様に、10%への増税に耐えられるだけの経済環境が整っていないとの懸念が大きいのだ。

 

 安倍政権は毎年のように企業へ賃上げを促している。その理由は他でもない、物価上昇をしのぐ勢いで実質賃金が上がらないと、個人消費の伸びしろがなく、景気が一向に良くならないからだ。しかし実際には、4月に発表された実質賃金は3カ月連続のマイナスとなり、長い目で見ても実質賃金の上昇は物価上昇率にまったく追いつけていない。ここに、もし税率引き上げによる負担増がのしかかれば、家計はさらに圧迫され、個人消費は大きく冷え込み、ようやく上向いてきている経済に深刻なダメージを与えることは確実だろう。

 

 とはいえ、対外的にも増税を約束し、景気条項まで削除した政府が、経済の不調を理由に三度目の延期を決断するには至らなかった。景気を理由とした延期は、取りも直さず自身の経済政策の失敗を認めることにもなるからだ。

 

 だが、財務省の相次ぐ不祥事で潮目が変わった。財務省の弱体化は「税と財政を司る官庁の信頼失墜」という増税延期の口実を政府に与えたとも言えるわけだ。

 

 来年10月の増税を実施するか延期するかの最終判断は、今年の夏から秋にかけてになるとみられている。自民党は9月に総裁選を控えているため、その最終判断を行うのが安倍首相か、あるいは他の誰かは分からない。

 

 誰が判断するにせよ、上向かない景気と財務省の弱体化という二つの理由によって、増税が「三度目の正直」ではなく「二度あることは三度ある」という結果になる可能性は否定できない。

(2018/05/28更新)