消費税10%への増税で

得する業種と損する業種

値段に潜む「見えない消費税」


 2019年に10%への消費税率引き上げが実施される。増税は日々の生活にさらなる負担を与えるのはもちろんのこと、消費税の仕組みによって発生する「損税」に苦しむ業種にとっては事業存続にも関わる一大問題だ。税率が上がればその分負担も増す業界からは、国に改善を求める声が次々に上がっている。増税によって損をする業種、得をする業種を見ながら、消費税をめぐる状況を確認したい。


 消費税の課税事業者は、仕入れ時には消費税を支払い、売上時には消費税を受け取る。年間を通して売上時に受け取った額のほうが多ければ差額分を納税し、逆に仕入れ時に支払った額のほうが多ければ還付を受けることが可能だ。還付額は、総売上に占める「消費税のかかる売上」の割合によって決められる。

 

 「消費税のかかる売上」と限定していることから分かるように、商取引のなかには政策上の観点などから消費税のかからない取引として定められているものがあり、この非課税取引の割合が多いと消費税の還付を受けることはできない。仕入時には消費税を支払っているにもかかわらず売上時に受け取ることはできず、還付も受けられない。一方的に損をこうむるわけで、これが「損税」と呼ばれるゆえんだ。

 

 損税の代表的なものに、医療業界の診療報酬が挙げられる。病院にある医療機械や注射器のような消耗品の仕入費用にはすべて消費税が上乗せされている。一方で、診療時に支払われる診療報酬には消費税がかからない。

 

 小売業などであれば商品の値上げという形で負担を消費者に転嫁できる。しかし診療報酬は国が定める公定価格のため勝手に変えることはできない。2年に1度行われる改定では消費税分を見込んだ増額がなされているものの、日本病院団体協議会の調査によれば、改定があっても消費税分を補てんできない病院が全体の4割に上る。最新の医療機械導入にコストのかかる大病院ほど状況は厳しいという。

 

薬業、アパート経営者、保険業界も「損する業種」

 隣接する薬剤師業界からも改善を求める声が上がる。医療用医薬品の価格には消費税相当額が加算されているが、調剤などにかかる診療報酬の部分には医療行為と同じく消費税がかからない。

 

 日本薬剤師会は17年度税制改正に向けた要望書で、医薬品の取引を軽減税率の対象とした上で、課税売上同様に還付などが受けられる制度に改めるよう強く求めている。

 

 損税に苦しむのは医療業界だけではない。賃貸アパート経営者も同様だ。事務所など事業用の賃料には消費税がかかるが、住居用の家賃については、人間が生きていくために最低限必要な住居に消費税をかけるのは好ましくないという政策上の理由から非課税取引となっている。

 

 消費税分を家賃に転嫁すればよい話ではあるものの、人口減少やアパートの過剰供給によって空室率が高まるなか、家賃の値上げは入居者離れを加速させる恐れもあって簡単にできないのが実情だ。リフォーム代や修繕費には当然ながら消費税がかかるため、10%に増税されれば維持コストがかさむことになり、アパート経営は今後さらに難しくなっていきそうだ。

 

 また生命保険や損害保険の保険料も原則として非課税だ。日本損害保険協会は17年度税制改正への要望で「代理店手数料や物件費などに係る消費税相当額を保険料に転嫁せざるを得ず、実質『見えない消費税』となっている」として、抜本的な制度の見直しを訴えている。損税の問題はさまざまな業種にあると言っていいだろう。

 

輸出戻り税で「得する業種」も

 一方、消費税の仕組みによって得をしていると言われる業種も存在する。

 

 消費税は外国への輸出取引にはかからない。しかし、かからないとは言っても診療報酬や賃料のような「非課税取引」ではなく、「課税取引だが税率ゼロ」として扱われる。つまり、輸出業者は課税売上割合による消費税の還付を受けられる。これが「輸出戻し税」と言われるものだ。

 

 制度自体は国内の仕入れにかかった消費税負担を還付するものであり、問題はないように見える。しかし実際には、国外に輸出を大々的に行っている多くは大企業で、国内の仕入先というのは中小下請け業者であることがほとんどだ。輸出戻し税として還付された分の税額を大企業が下請けにきちんと払っていればよいが、下請けへの買い叩きが一向になくならないことからも分かるように、実際には税負担を丸々下請けがかぶり、輸出大企業は戻し税で「益税」を得ているという構図が存在する。

 

 これら大企業が所在する地域では消費税の還付金によって税務署に〝赤字〞が生じるという現象も起きている。14年度の税務署別課税状況によれば、トヨタ自動車のある豊田税務署では消費税の還付だけで2364億円の赤字が出ているという。10%へ税率が上がれば、税負担に苦しむ下請けの上にあぐらをかく大企業という構図がさらに広がることになるだろう。

 

 損税、益税はともに消費税の制度そのものが抱えるひずみだ。放置したまま増税を実施すると、このひずみはさらに拡大することになる。課税公平性という原点に立ち返り、政府は税率を上げるだけでなく、抜本的な仕組み改善にも目を向けてもらいたい。

(2016/09/30更新)