決算前の節税戦略

出費するなら年度内がお得


 決算が間近に迫った時期は節税戦略を練る絶好機だ。業績見込みを基におおよその予定納税額を把握し、それを踏まえてどのように税負担を軽くするかを考えていくことになる。決算対策の王道である生保加入のメリットが今後は減っていくとも言われており、早めの決断が必要だ。3月決算法人の事業年度の終了まで残りわずか。決算前に検討すべき駆け込み節税策を確認しておきたい。


金融庁・国税庁が生命保険活用に〝待った〞

 多くの会社が決算期としている3月末が間近となった。これまでの業績から収益を予測し、黒字になりそうなら法人税の課税対象になることを見据え、損金になる必要経費を支出して納税額を減らすことを検討する時期だ。その際、必要のない出費をしてしまえば会社の財務に悪影響を与えて本末転倒だが、近い将来に支出する予定があるものなら年度内に経費にしなければもったいない。

 

 確実に業務で使うものは決算期までに買い足すべきだろう。事務用品などの消耗品は、毎年おおよそ一定量を購入するもので恒常的に消費するなら、購入時に損金にできる。コピー用紙や筆記具などのストックを確認しておきたい。

 

 また青色申告をしている中小企業は、30万円未満の減価償却資産が年間300万円まで全額経費になる特例を適用できる。パソコンやプリンターなどの減価償却資産の買い替えを予定しているなら年度内の購入がお得となる。

 

 消耗品の購入や30万円未満の減価償却資産の特例の適用は、少額の出費を積み重ねていく節税法だ。一方、多額の経費を計上する代表的な方法には、生命保険への加入と事業用資産の修繕がある。

 

決算対策の王道は生保加入だが…

 生命保険への加入は決算対策の代表格のひとつだ。会社が保険契約者として保険料を支払い、被保険者を社員や役員、満期保険金受取人を会社、死亡保険金受取人を被保険者の遺族にするなどで、保険料を損金にできる。商品によっては積み立てた保険料の範囲内で一時的にお金を借りる契約者貸付で運転資金に回すことも可能だ。

 

 決算対策の王道である保険への加入だが、今後はメリットが減っていくとも言われている。全額損金にできるうえ返戻金が高額となる保険商品に対し、金融庁が「商品設計が合理性や妥当性を欠く」と見ているためで、返戻率の変更など商品設計の見直しを迫られる可能性が高い。さらに、国税庁も生命保険各社に対し、法人向け定期商品のうち解約返戻率が50%を超えるものについては税務上の取り扱いを見直す案を示しており、すでに大手4社などが販売停止を決めたほか、各社も順次新規募集を打ち切る方針だ。

 

 そもそも生命保険の本来の役割は何かが起こった時のための保障にある。会社の危機に備えると同時に経営の安定化につながるなら、税メリットが多少減ってしまっても加入する意義は大きい。

 

事業所修繕で税額圧縮

 事業用資産の修繕も大幅に納税額を減らす一手となる。事業所、機械装置、賃貸不動産、自動車といった事業用の固定資産の修繕や修理にかかる費用は、経費として損金に算入することができる。それらの出費は百万円単位になることもあり、税額の圧縮効果は大きい。

 

 ただし、固定資産の維持管理や原状回復のための費用でなければならず、修理によって固定資産の耐久性や資産価値が増すなら損金化は認められない。その線引きについては納税者と税務署が争いになることも多いため、顧問税理士への確認は必須と言える。

 

 また、修繕や設備投資を視野に入れているなら、消費税に関する届け出について事前に確認しておかなければならない。大規模な設備投資をすると課税仕入れ額が大幅に増えるため、課税事業者なら多額の還付金を受けられることもあるが、消費税の課税事業者選択届出の提出を忘れてしまい、後になって税務署から不還付という知らせを受ける会社が後を絶たない。もし課税事業者になっていないなら、事業年度が切り替わる前に税務署に書類を提出したうえ、投資を次年度に後回しにする方が賢明と言える。

 

非常食の備蓄は一括損金化

 非常食の購入も節税につながる。1食あたり数百円のものでも、全社員が数日しのげる分の保存食を確保するとなると高額な買い物になり、社員の人数によっては何十万円、何百万円の出費となる。これらの費用は、実際に食べたときに損金にするのではなく、備蓄をした時点で事業のために使ったとみなして損金処理する。

 

 非常食の賞味期限は3〜6年程度が一般的だが、なかにはオレゴンフリーズドライ社のチキンシチューなどのように25年に及ぶものさえある。とはいえ、阪神・淡路大震災の発生から24年が経った今、たとえ賞味期限が25年のものでも買い替え時となっている。期限が近付いている非常食が備蓄されていないか確認しておく必要があるだろう。

 

 決算前の節税策は事業年度内にやり切らなければ効果がない。だからといって期末に慌てて不要な出費をしてしまえば、税額は減っても会社にとってマイナスとなる。事業年度が終わる数カ月前には業績見込みを把握し、税理士に相談しながら早期に対策を講じることをオススメしたい。

(2019/02/28更新)