民法改正で相続分野大幅な見直し

配偶者に手厚い優遇策


 政府は、遺産分割後も配偶者が自宅に住み続けることができる「配偶者居住権」を新設するとともに、婚姻期間が長期間の場合に配偶者が生前贈与や遺言で譲り受けた住居(土地・建物)は原則として遺産分割の計算対象外とすることなどを盛り込んだ民法改正案を閣議決定し、国会に提出した。今国会で成立すれば、民法の相続分野の大幅な見直しは1980年以来、約40年ぶりとなる。高齢社会の進展にあわせ、配偶者の老後の経済的安定につなげることが狙いだ。


配偶者居住権を新設

 今回新設されることになった配偶者居住権は、残された高齢の配偶者への保護策が手厚くなっている。現行法では配偶者が建物の所有権を得て住み続けることができるが、建物の評価額が高額の場合、預貯金などの相続財産を十分に取得できない恐れが指摘されてきた。

 

 現行では、遺言がなく配偶者と子どもで遺産を分ける際、配偶者の取り分は2分の1となる。例えば、相続人が妻と子ども1人、遺産が評価額2千万円の住居と2千万円の預貯金だったとすると、妻が2分の1、子どもが2分の1ずつなので、取り分は妻が2千万円、子どもが2千万円となる。妻が今の住居に住むための所有権を得ると、預貯金を相続できず、老後の生活に不安が残る。逆に預貯金を相続すると家を失うことになる。

 

 新設された配偶者居住権は、所有権が他者にあっても住み続けることができるようにするもの。原則として亡くなるまで行使でき、譲渡や売買はできない。居住権の評価額は平均余命などを基に算出され、配偶者が高齢であるほど安くなるように設定される。

 

 先の例でみると、配偶者居住権を1千万円、家の所有権を1千万円で設定すれば、妻の取り分は配偶者居住権1千万円、現金1千万円、子どもは家の所有権1千万円、預貯金1千万円というような分割方法が可能となる。

 

婚外子の最高裁判断契機に改正へ

 配偶者が居住権を得ることを選択すれば、他の財産の取り分が実質的に増えると見られ、生活の安定につながることが期待されている。

 

 配偶者居住権を見直すきっかけになったのは、2013年の最高裁判断だった。最高裁は結婚していない男女間の子の相続を、結婚している男女間の子の半分とする民法の規定を違憲と判断。これを受けて法務省が民法規定の廃止を検討する際に、自民党の保守派から法律婚への保護強化を求められた。そこで法務相の諮問機関である法制審議会は、長年連れ添った夫に先立たれた妻が夫の死後も自宅に住み続け、安心して生活資金を確保できる方法を検討することになった。

 

 16年6月の中間試案では、子どもと分け合う場合の配偶者の法定相続分を全遺産の「2分の1」から「3分の2」に引き上げる案を提示した。だが、意見公募で反対の声が相次ぎ、撤回することになった。

 

婚姻20年以上なら遺産分割から除外

 そこで、もうひとつの配偶者優遇策が新設される。結婚して20年以上の夫婦であれば、生前贈与または遺言で贈与された自宅や居住用土地は遺産分割の計算から外せるようにする。現行法では生前贈与された住居は被相続人が遺言で「住居は遺産に含まない」といった意思表示をしていなければ、遺産分割の計算対象となる。

 

 そのため、婚姻期間が20年以上であれば、配偶者が生前贈与などで得た住居は「遺産とみなさない」という意思表示があったと推定する規定を民法に加えることにした。こうすることで、遺産分割のために住み慣れた家を売却せざるをえないケースが減るものとみられる。

 

 先の例と同じ家族構成で、夫が妻に2千万円の家を生前贈与し、預貯金2千万円が残ったとする。現行では、遺言で意思表示しない限り、家は遺産分割の対象になり、妻は2千万円の家を贈与されているので預貯金を相続できない。だが新たな制度では、遺産が預貯金2千万円だけになり、妻は2千万円の家に加え、現金1千万円を相続でき、子どもの取り分は1千万円になる。

 

 一方で、法律婚でない同性婚や事実婚は法の適用から外されたままとなっている。

 

 このほかにも相続人以外の被相続人の親族(相続人の妻など)が被相続人の介護を行った場合、一定の要件を満たせば相続人に金銭請求できる制度や、遺産分割前に生活費などを故人の預貯金から引き出しやすくする「仮払制度」が新設される。また生前に書く自筆証書遺言を公的機関である全国の法務局で保管できるようにして、財産目録をパソコンで作成できるようにする。

(2018/05/09更新)