大きく変わる相続ルール

民法の改正点をおさらい


 民法の相続分野の規定(相続法)が約40年ぶりに大きく変わることになりそうだ。亡くなった人(被相続人)の遺産分割で、相続人の一人である配偶者が遺産分割後も自宅に住み続けることができる「配偶者居住権」を新設するとともに、婚姻期間が長期間の場合に配偶者が生前贈与や遺言で譲り受けた住居(土地・建物)は原則として遺産分割の計算対象外となる。これに加えて、事業承継の障害になっていた遺留分制度の見直しが盛り込まれているなど、中小企業経営者にとってチェックポイントは多いと言える。


配偶者居住権を新設

 今回新設されることになった「配偶者居住権」は、残された高齢の配偶者への保護に重きを置き、自宅の権利を「所有権」と「居住権」に分けることで、所有権が別の相続人のものとなったとしても配偶者が住み続けることができるようにするもの。原則として亡くなるまで行使でき、譲渡や売買はできない。居住権の評価額は平均余命などを基に算出され、一般に配偶者が高齢であるほど低くなり、所有権よりも安くなるように設定される。

 

 現行では、遺言がなく配偶者と子どもで遺産を分けると、配偶者の取り分は2分の1となる。相続人が妻と子ども1人、遺産が評価額3000万円の住居と3000万円の預貯金であれば、妻と子で2分の1ずつなので、取り分は双方3000万円。妻が今の住居に住むための所有権を得ると、預貯金を相続できず、老後の生活に不安が残る。逆に預貯金を相続すると家を失うことになる。新制度では配偶者居住権を1500万円、家の所有権を1500万円で設定すれば、妻の取り分は実質的に増えると見られ、生活の安定につながることが意識されている。

 

結婚20年以上で遺産分割から除外

 相続法制の改正案では、婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、配偶者が生前贈与や遺言で譲り受けた自宅や居住用土地は原則として遺産分割の対象から外せることも盛り込まれた。

 

 生前贈与をした事実からも、老後を安心して生活してほしいという、妻に対する夫の願いがあることを考慮し、新たな制度では住居が遺産分割の対象外となった。婚姻期間が20年以上であれば、配偶者が生前贈与などで得た住居は「遺産とみなさない」という意思表示があったと推定する規定を民法に加えることになった。

 

 こうすることで、遺産分割のために住み慣れた家を売却せざるをえないケースが減るものと期待される。新たな制度では、前述の例で言えば遺産は預貯金3000万円だけになり、妻は3千万円の家に加え、現金1500万円を相続でき、子どもの取り分は1500万円になる。一方で、法律婚でない同性婚や事実婚は法の適用から外されたままとなっている。

 

介護で金銭請求

 配偶者以外にも優遇策が講じられている。相続人以外でも介護をした人など被相続人に貢献した人がいるが、現行では相続人でなければ遺言がない限り、遺産を分配されることはない。改正案では、相続権のない6親等以内の血族と3親等以内の配偶者が介護などに尽力していれば、相続人に金銭を請求できる制度が盛り込まれた。義父を介護してきた「息子の妻」などが請求できるようになる。ただし、事実婚や内縁など、戸籍上の親族でない人は従来通り請求できない。

 

仮払制度の創設

 遺産分割前に生活費などを故人の預貯金から引き出しやすくする「仮払制度」が新設される。現在は、遺産分割協議が成立するまで原則として銀行などの金融機関は被相続人の遺産の払戻しや名義変更に応じることはない。これによって、生活費の確保が十分でなかったり、葬儀費の支払いに支障を来たしたりするケースが起きている。

 

自筆証書遺言のトラブル防止

 家庭裁判所が記載内容を確認した2017年の「自筆証書遺言」の件数は10年前の07年と比べ1・3倍に増えている。「終活」への関心の高まりや自分の死後のトラブルを避けるため、自筆証書遺言を書き残す人が増えているとみられる。

 

 だが、この自筆証書遺言が原因で相続が「争族」になってしまうケースが多々ある。これまでは、相続から何年も経過した後に遺言書が発見されて遺産分割協議がやり直しになったり、発見したひとが変造・破棄してしまったりして遺言が執行されない危険性があった。そこで生前に書く自筆証書遺言を公的機関である全国の法務局で保管できるようにして、相続人が遺言の有無を調べられる制度を導入することになった。

 

 また、家庭裁判所で相続人が立ち会って内容を確認する「検認」が終わらなければ遺言の執行ができなかったが、自筆証書遺言を法務局に預けた場合は、「検認」の手続きがいらなくなった。

 

 さらに、自筆証書遺言の場合、「全文を自書する」ことが成立要件とされているため、誤字などによるトラブルも起きていた。このため財産の一覧を示す「財産目録」はパソコンでの作成を可能にする。

 

遺留分見直しで事業承継後押し

 中小企業の事業承継では遺留分制度が大きな障害になることがある。相続人が複数いる場合、自社株式を後継者に集中させようとすると、他の相続人の遺留分を侵害してしまい、結果として自社株式を相続人の間で分散保有せざるを得なくなるという問題が指摘されている。現行は遺留分の基礎財産に含める贈与の期間制限はない。共同相続人への贈与などはどれだけ昔のものでも持戻しの対象としているが、改正案は、相続開始前の10年間の贈与に限定することになった。早期に自社株式を後継者に贈与して10年を経過すれば、遺留分の問題は生じない。事業承継税制の拡充もあり、贈与での早期移転がより活発になりそうだ。

(2018/07/04更新)