上手な土地の残し方

地方圏27年ぶりの地価上昇


 「公示地価」が公表され、近年続く地価の上昇がますます加速していることが明らかになった。特に注目すべきは、都市部が牽引するかたちで全国平均が上がるなか、下落を続けていた地方圏がついにプラスに転じたことで、地価上昇の波が全国に波及し始めた現状が示されている。ただし所有する土地の価格が上がれば、それは将来の相続税負担の増加を意味する。相続した土地の登記義務化が検討されるなど諸制度にも変化が起きつつあるなか、これまで以上に不動産対策の必要性が増している。


 2016年の公示でプラスに転じた全国の平均地価は、その後3年連続で上昇幅を拡大し、発表されたばかりの19年版では前年比1・2%の伸びを示した。三大都市圏を除いた地方圏だけで見ても、マイナスを脱出して横ばいに転じた昨年に続き、今年は0・4%のプラスとなっている。地方圏の全用途平均の地価がプラスを記録するのは、なんと1992年以来27年ぶりのことだというから、ここ数年続いてきた地価上昇がとうとう地方に波及し始めたと言っていいだろう。

 

 もっとも、ひと言で「地方圏」といっても実情はそう単純ではない。地方のなかでも札幌市、仙台市、広島市、福岡市のいわゆる「札仙広福」が三大都市圏をもしのぐ地価高騰を見せ、地方圏全体の数字を押し上げている面は否めないからだ。

 

 四都市の伸び率は5・9%と飛び抜けていて、それを除いた地方の地価推移はマイナス0・2%と下落から脱出できてはいない。しかしそれを踏まえても、地方の地価は回復しつつある。商業地では26年間続いてきた下落からついに抜け出し、工業地でも27年ぶりの上昇に転じた。住宅地では依然0・2%の下落だが、ここ数年、着実に下落幅は縮小していて、来年には上昇に転じる可能性も十分にある。バブル崩壊から長く続いてきた地価下落というトンネルに、やっと出口が見えてきたのかもしれない。

 

地価上昇で相続税も負担増

 しかし公示地価の上昇は喜ばしい一方で、相続税対策という観点で考えると素直に喜べない面もある。公示地価は、国税庁が毎年7月に発表する「相続税路線価」の算定基礎となるものだ。この価額を基に、相続で受け継いだ土地は財産としての評価額を計算され、相続税額が決定される。相続税路線価は、おおよそ公示地価の8割、実勢価格の7割程度と言われ、形状や利便性によって補正が加えられるものの、公示地価が上がることは相続税負担の増加を意味すると言っていい。

 

 例えば今年一番の伸び率を示した北海道虻田郡倶知安町の地点では、昨年に比べて同じ土地の値段が58・8%上昇した。ちなみに同じ地点は昨年時点でも前年から35・6%の高騰を見せていて、2年間で地価が倍以上になっている。ここまで極端な例でなくても、地価の上昇トレンドが続けば、それだけで将来の相続税負担も上がり続けているという土地オーナーが全国に多く存在する。数年で信じられないほど相続税評価額が上昇する可能性もあり、公示地価の上昇は、相続税対策の必要性ががぜん高まっていることを意味するわけだ。

 

 もし自分が持つ土地が上昇傾向を示していて、そこを自宅として相続させることを考えているなら、税額が上がる分の納税資金対策をしなければならない。それどころか更地のまま何となく放置しているという土地があったとすると、相続税評価額は宅地の数倍にも跳ね上がる。地価が上昇している今のうちに処分するか、そうでなければ何らかの建物を建てるなどの相続税対策が急務だ。

 

 相続で引き継ぐよりも地価の上昇を最大限に生かしたいのならば、不動産投資や賃貸物件としての土地活用を考える必要がある。賃貸物件であれば今なら賃料の増加が見込め、売るにしろ自分で商売に使うにしろ、人気エリアの土地は多くの収益をもたらしてくれる可能性が高いと言えるだろう。一方で、地価下落を続けているエリアも数多くあることを踏まえ、相続税対策として土地を持つにしても、ただ現金を土地に換えるのでなく、どのような土地に換えるかが重要になっていくはずだ。

 

相続した土地の登記義務化へ

 そして土地を相続で受け継ぐ側にとって無視できないトピックスとしては、相続した土地の登記の義務化がある。相続などをきっかけに生まれる所有者不明の土地が全国で増えている問題を解消するため、法務省が現在、相続人の登記義務化などを盛り込んだ法改正を検討中だ。早ければ来年の国会に改正法案が提出される見通しで、現在は任意となっている相続登記を義務化し、違反には罰金などを科す。また迅速な登記を促すため、遺産分割協議に民法上の期限を設定するという。

 

 これまでのように管理が面倒な土地については相続をせず、荒れるに任せるといったことができなくなるわけだ。ただし同時に、土地の利活用に向けた公的な取り組みや所有権を放棄できる制度の創設といった方策も練られているので、親や祖父母が持つ使い道のなさそうな土地を相続する可能性のある人は、今後の法改正の動向から目を離さないようにしたい。

 

 地価上昇は来年の2020年が一つの区切りであると言われる。投資目的で土地を持っていた人が五輪後にいっせいに土地を手放し、下落に転じるとの予想もある一方で、国策として観光立国化が進められている以上、地価上昇を支えるインバウンド需要が増加していくという見方も強い。オーナーとしては、どのような不動産対策をとるにしろ、まずは自分の持つ土地が置かれている現状を知り、それぞれに合った方策を練ることが重要だろう。

 

 ひと口に地価の全国平均が上がったといっても、その実情は地方によって異なる。個別地点の地価は国土交通省のサイトで閲覧できるため、まずは自分に関係のある土地の地価動向を調べてみてはいかがだろうか。

(2019/05/14更新)