ビール税改正

メーカー VS 国税当局

イタチゴッコは終わるのか


 平成29年度税制改正で酒税が見直され、ビール、発泡酒、第三のビールの税率が一本化されるとともに、酒税法上のビールの定義が変更されることとなった。発泡酒や第三のビールを飲んでいた人は税率引き上げによる負担増を嘆き、一方でそれらと比べて麦芽比率が高いビールの愛飲者は価格が引き下げられることに期待を寄せるなか、外国のビールを専門に扱う業者は、果実や香味料を使用している商品も日本で「ビール」と名乗れるようになる改正を大いに歓迎している。さらに日本のビールメーカーは、酒税の改正により、いびつな開発競争から解放されることになりそうだ。


 酒税法の改正で、ビールの税率引き下げと発泡酒・第三のビールの税率引き上げが段階的に行われ、平成38年10月には350㎖あたりの税率が54・25円に統一される。また、この改正に先駆けて来年4月にはビールの定義が変わる。

 

 現行法上、日本で「ビール」と名乗るには、主原料である水、ホップ、麦芽のほかに、副原料として、米、麦、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、でんぷん、糖類、一定の着色料以外は用いることができない。また水とホップを除くすべての原料のなかで麦芽が占める割合(麦芽比率)を67%以上にしなければならない。麦芽比率が67%未満もしくは決められた副原料以外の原料を使用した酒は発泡酒に区分される。さらに、麦芽の代わりにえんどう豆やとうもろこしを主原料にしたり発泡酒に別のアルコール飲料を混ぜたりしたものは第三のビールとなる。

 

 税率はそれぞれ異なり、ビールは350㎖あたり77円が課税されている。発泡酒は麦芽比率によって3種に分けられ、25%未満で350㎖あたり46・99円、25%以上50%未満で62・34円、50%以上でビールと同じ77円。第三のビールへの税金は、ビールの3分の1近くの28円だ。

 

新商品が出るたびに増税

 日本のビールは酒税法に翻弄されながら独自の〝進化〞を遂げてきた。サントリーは平成6年、酒税法上のビールに当てはまらない麦芽比率65%の「ホップス」を販売。ビールの一般的な価格より40〜50円安く売り出した。しかし酒税収入の減少を危惧した国税サイドが酒税法を改正し、麦芽比率50%以上の「発泡酒」もビールと同税率とする改正法を施行。

 

 こうした状況下で今度はサッポロが、平成14年に原材料に麦芽を使わない「サッポロドラフトワン」を開発。ビールや発泡酒の定義に当てはまらない低価な「第三のビール」として人気を獲得した。だが発泡酒や第三のビールを狙い撃ちした税率引き上げが行われ、メーカー各社が安価な「ビール」を開発するというイタチゴッコが続いた。

 

 可能な限り税率が低くなる商品の開発にメーカーが技術力を注いでいく過程で、発泡酒であるか第三のビールであるか、国税当局と見解が異なる境界線ぎりぎりの商品も開発された。第三のビールとして売り出していたサッポロの「極ZERO」に対し、国税当局が税率の高い発泡酒であると判断したことによる争いは、発覚から3年経っても収束しておらず、同社は4月中旬、納め過ぎた税金の返還を求めて東京地裁に提訴している。

 

 外国のビールを扱う業者の多くは、今回の改正を歓迎しているようだ。ベルギービールの普及を進める日本ベルギービール・プロフェッショナル協会の三輪一記代表理事は、「これまでベルギービールの多くは発泡酒に区分されてきたため、『味が薄いのではないか』、『値段の割に味が落ちるのではないか』といった、間違った先入観をもたれてきた。酒税が変わることで、今後はそういった見方が少なからず変わるはず」と話し、外国のビールを専門に扱う事業者にとって、今回の酒税改正の内容は「長年求めていた見直し」であるという。

 

海外ビール業者は大歓迎

 三輪氏が期待するのは、これまで酒税法上で発泡酒に区分されていた多くのベルギービールが日本でビールと名乗れるようになり、日本のビールと同じステージに立てるようになるのではないかということだ。

 

 ベルギービールは味わいや香りが商品によってバラエティーに富んでおり、その種類は1500以上に及ぶ。現状では、ベルギービールを含む外国産のビールは日本市場で不利な立場にある。オレンジピール(果皮)など酒税法上の「ビール」に認められていない原料を使っている商品が多いためビールと名乗れず、発泡酒表記により「ビールと比べて一段低いお酒」と見られるためだ。

 

 発泡酒扱いでも麦芽比率が50%以上だとビールと同じ税率が掛けられており、価格勝負の面で日本の発泡酒以上に安くするのは難しい。しかし今後、副原料として果実や一定の香味料を使っている商品もビールの定義に加わることになる。

 

 また、現行では「67%以上」とされている麦芽比率の基準が「50%以上」に引き下げられることになり、発泡酒からビールに〝格上げ〞される海外のビールは間違いなく増えるため、これまで以上に消費者から評価されることになりそうだ。

 

 三輪氏は、今回の酒税改革で、日本の「ビール」が外国産のビールのような多様性を持つようになることにも期待している。税率が一本化されることでビールメーカーは税率の高低を踏まえた開発競争から解放され、純粋に味わいや飲み口などを追求した商品開発に注力できるようになるとみられる。

 

 ビールの税率は引き下げられる一方、発泡酒や第三のビールは増税となる。そして国内メーカーは多様な味わいのビールを開発する方向にシフトチェンジすることが予想される。店頭に並ぶ外国産ビールも増えるだろう。消費者のビールとの付き合い方が少なからず変わりそうだ。

(2017/06/02更新)