承継準備には十年もの時間が必要

バトンタッチ見据え会社総点検

チェックシートで自己診断


 中小企業庁の外郭団体である事業承継協議会が2006年にまとめた「事業承継ガイドライン」では、中小企業の経営者の平均年齢が60歳を超えようとしていること、また中小企業の経営者自身が考える引退予想年齢の平均が67歳であることから、「過半の中小企業が、今後10年程度の間にはこの(事業承継の)問題の対応を迫られることとなる」と予測している。そして10年経ったいま、420万社(06年)だった中小企業は380万社(14年)にまで減っており、中小企業の多くが思い通りに承継できなかったことが分かる。中小企業庁はこうした状況を踏まえて「事業承継ガイドライン」の内容を10年ぶりに見直した。将来的に直面する、あるいは眼前にある事業承継というハードルに、経営者はどう立ち向かうべきか。


 日本政策金融公庫総合研究所の事業承継調査によると、調査対象企業のうち60歳以上の経営者の半分が廃業を予定しており、その理由は「最初から辞めるつもりだった」「事業に将来性がない」(合計6割)に次いで、「会社を継ぐ意思が子どもにない」「子どもがいない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者不足でやむなく廃業を予定する経営者が3割を占めた。後継者探しやその育成は時間がかかるものであり、中小企業は早めに対策を講じる必要がありそうだ。

 

 中小企業が事業承継に着手すべきタイミングについて、中企庁のガイドラインでは、事業承継の準備には5〜10年かかり、また平均引退年齢が70歳前後であることから、「60歳頃には事業承継に向けた準備に着手する必要がある」と目安を示している。準備の必要性を把握するには、自社の事業承継への備えの状況を確認する「事業承継自己診断チェックシート」を利用したい。回答に「いいえ」が多ければ、年齢にかかわらず何らかの対策を講じなければならない。

中企庁がガイドライン作成

 事業承継をどのように進めていけばいいか分からないという人も多いのではないだろうか。ガイドラインでは、準備の必要性を認識する段階から、事業承継(M&Aを含む)を実行する段階まで、全5ステップに分けて説明している。

 

 社長は事業承継の準備の必要性を認識(第1ステップ)したら、第2ステップとして自社の経営状況や課題を把握することになる。この段階で重要な作業のひとつは、社長が個人として会社に貸し付けている財産がどのくらいあるのかをきちんと確認することだ。

 

 相続が発生してから社長個人の財産がたくさん貸し付けられていることが分かると、後継者は事業用不動産や自社株の確保が十分にできず、結果的に相続直後に会社を継続できなくなるリスクがある。将来の相続も見据えて財産の見える化をしておき、会社の財産にしておくなどの対策を講じておかなければならない。

承継前に魅力的な組織に!

 第3ステップである経営改善には、業績改善や経費削減といった日々の業務でも取り組むべきことのほか、新商品の質やブランド価値の向上、知的財産権の取得、顧客獲得・維持など多岐にわたる策がある。経営課題の洗い出しや経営改善によって誰にとっても魅力的な会社にすることが、後継者不足問題を解消する一手になるとガイドラインでは説明されている。

 

 第4ステップは、親族内・従業員への承継なら事業承継計画を策定することだ。社外への引き継ぎなら引き継ぎ相手とのマッチング業務を進めることになる。事業承継やM&Aを実行するのが最後のステップになる。

 

 これらの策を実行するには専門知識が必要なことも多く、自社だけでは対応しきれないこともある。この点について新しいガイドラインでは、同業種組合、商工会議所、金融機関、士業者のネットワークや総合相談拠点を「かかりつけ医・総合医」、事業再生や事業承継の専門家を「専門医」と呼称し、専門家の活用を勧めている。身近な経営の相談相手である税理士が「かかりつけ医」の第一候補になるのかもしれない。

 

 帝国データバンクによると、経営者の平均年齢は1990年には54歳だったが、2005年には57・7歳、15 年には59・2歳にまで上がっており、事業承継が進んでいないことが分かる。重い病気にかかったときなど差し迫った事態が訪れてからではなく、早め早めに事業承継対策を講じておきたい。

(2017/02/01更新)