コロナ禍で税制はどう変わる?

各業界の要望から読み解く


 与党が年末にまとめる次の税制改正大綱に向けて、今年も様々な団体が改正に対する要望を出す季節となった。通常であれば「うちの業界に対する税負担の軽減を」という思惑がにじむ各団体の要望だが、今年はコロナ禍を受け、「優遇より救済を!」という悲痛な叫びが色濃く表れたものとなっている。業界団体の要望を通じて、ウィズコロナ時代の税制のあり方を考えてみたい。


 コロナショックによって、社会のありようは大きく変わった。人々の行動様式は変化し、経済は停滞し、多くの中小事業者が先の見えない苦境に立たされている。こうした危機に対して、国は納税猶予や給付金、特別融資など様々な手当てを講じているが、それらはあくまで応急処置に過ぎない。またそうした一時的な処置で乗り切れる危機だと当初は考えていたのかもしれない。

 

 しかし、一度は減少した感染者数は再び増加に転じた。にもかかわらず政府はこれ以上の経済的なダメージを勘案してか、思い切った対策に踏み切らない様子だ。こうした状況で、各業界から上がってくる来年度の税制改正に向けた要望は、必然的に新型コロナへの対応を抜きには語れないものとなっている。

 

 例えば税の専門家団体である日本税理士会連合会(日税連)は、2021年度税制改正に向けた建議書をまとめたが、通常のものとは別立てで「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う建議書」も出した。

 

 この建議書では「納税者を取り巻く社会や経済の状況が一変した」として、欠損金の繰越控除の期間制限の撤廃、過去2年にわたっての繰戻し還付、業務用不動産の譲渡損失の損益通算など事業者救済のための大胆な特例措置を求めている。さらに地方税である法人都道府県民税や法人市町村民税の減免、役員給与改定の要件緩和、債権放棄による貸倒損失の柔軟化など、コロナ禍で考えられる様々な場面での税の軽減も要望した。

 

 また通常の建議書でも日税連は新型コロナの影響に触れている。23年に導入される予定の消費税のインボイス方式に対して、「危機的な情勢下にあっては、準備期間等を考慮すれば、少なくとも導入時期については延期すべき」としたほか、交際費でも「飲食業や観光業の復興支援のため、損金算入要件を大幅に緩和すべき」と訴えている。

 

地価にも影響

 観光客減少の影響を受ける商業地の地価は言わずもがな、住宅新築着工数も減少を続け、マンションの取引件数は今年4月で対前年比52・6%のマイナスとなるなど、関連業界は非常に厳しい状況に置かれている。地価の下落は不動産業者だけでなく、個人の土地オーナー、相続で土地を受け継ぐ人などにも多大な影響を及ぼすだけに、税制面での対応が求められるところだ。

 

 現時点で講じられている対策としては、収入が著しく落ち込んだ事業者の固定資産税を減免する措置、住宅ローンの適用要件の緩和に加え、新型コロナの影響を反映していない相続税路線価の減額調整も行われる予定だが、業界としてはそれだけでは足りないという認識だ。

 

 一般社団法人不動産協会では、新型コロナによる経済的危機は「戦後最大」だとして、これまでにない規模での税制上の支援を求めた。特に、新型コロナで経済が打撃を受けているにもかかわらず、来年の固定資産税の評価替えでは近年の地価上昇を踏まえた負担増が見込まれるとして、固定資産税の負担調整や、一定期間の課税標準の据え置き措置を求めている。

 

 さらに時限措置として講じられている住宅ローン減税の控除期間延長を継続すること、住宅資金贈与の非課税特例の延長、テレワークの増加に対応する都市計画への優遇なども要望した。

 

 同様に一般社団法人不動産流通経営協会も、住宅ローン減税の控除額の引き上げ、新型コロナ対策として講じられている既存の税制特例の延長などを求めた。同協会は「不動産取引は内需の柱」だとして、経済回復には税制面での救済が必要だと訴えている。

 

IT業界はあれもこれもと税優遇を要望

 一方、企業への大規模な支援を求めるのは、楽天の三木谷浩史社長が代表を務める一般社団法人新経済連盟だ。IT企業団体によって組織される同連盟では「コロナ問題を乗り越えるための税制提言」を発表し、様々な税制上の措置を要望している。

 

 例えば、コロナ禍での新たな資金調達手段としてクラウドファンディングの利用が増えていることを踏まえ、そうした場を提供するプラットフォーマー(運営業者)に対して、運営費の一部税額控除を認める税制の導入を提案した。同時に、寄付金税制や益金不算入制度を拡大して、資金を募る側と募られる側の双方に税制優遇を与えるべきとしている。

 

 また現在の状況下では手元資金が不安な事業者が多いことから、キャッシュフローを改善する税制上の措置が急務だと訴え、具体策として、法人税の中間納付の緩和、欠損金の繰戻し還付の5年間への延長、さらに現在は益金として扱われる雇用調整助成金の益金不算入制度の創設などを求めた。

 

 ただし、「コロナ問題を契機とした新たな国づくり」として、オープンイノベーション税制の拡充やベンチャー企業への大幅な優遇を求めている点は、やや牽強付会の印象がぬぐえないところだ。

 

 今後はさらに多くの業界から21年度税制改正に向けた要望が出されることになる。そうした要望の向こうに、新型コロナによって変容した社会や経済の新たな姿が透けて見えてくるはずだ。

(2020/09/01更新)