コロナ禍こそ積極的な決算対策

飛躍に向けて仕込み時


 新型コロナ関連の優遇融資によって資金を調達しやすくなっている今年度は、積極的な投資による決算対策を講じたいところだ。手元の資金を設備の購入に回すことで、来期の売上増に向けた突破口を開きたい。また、支出が増えた分の黒字を減らすことで節税にもつながる。コロナ禍というピンチに見舞われてはいるが、積極的な投資で次の事業年度を飛躍の年にしたい。


実質無利子· 無担保で資金調達

 新型コロナウイルスの流行を受けて始まった特別融資の多くは、コロナの影響で売上が一定以上減っていることを優遇措置の要件としている。例えば日本政策金融公庫や商工中金といった政府系金融機関では、1カ月間の売上高が前年または前々年の同期と比較して5%以上減っている事業者を低金利融資の対象とし、さらに売上高が20%以上減っている中小企業や15%以上減っている小規模企業には実質無利子の融資を提供することになっている。信用力や担保の有無は要件に含まれていないので、売上高が1カ月だけでも減少していれば原則として資金を借りることができるわけだ。

 

 そのため、例年と比べて多額の資金を借りやすくなっている。国内銀行の月次貸出残高で見ても、6月は前年同月比で6・5%増、7月は6・4%増、8月は6・7%増と、確実に増えている状況だ。コロナ特別融資を活用して手元の資金を手厚くしている会社が多いことがうかがえる。

 

 売上が落ちたことを理由にした融資は、一般的には「運転資金」として借りることが多いが、今回の特別融資は「設備資金」としての借り入れも可能だ。このことは金融機関のパンフレットにも明示されている。そのため設備資金が例年以上に潤沢になった会社もあるだろう。手元の資金が多い事業者は、これまでにはできなかった積極的な投資をする好機としたいところだ。また若干苦しい状況にある企業も、運転資金に充てる額以上の資金が手元に残るのであれば、設備投資で来期の飛躍につなげることを検討する余地はある。

 

 また、自社の業績に合わせて決算期に計画的な投資をすれば、税金を減らすことにもつながる。少しでも税負担を軽くできるように工夫を凝らすようにしたい。

 

設備投資の優遇措置活用

 決算時の節税対策の基本は損金になる支出を増やすことにある。10万円までの備品や消耗品は全額を損金にできるため、次の事業年度が始まる前に必要なものを購入しておくといいだろう。また青色申告をしている中小企業は、30万円未満の減価償却資産を年間300万円まで全額経費にできるので、パソコンやプリンターの買い替えを予定しているなら年度内に購入して納税額を減らすのが得策となる。テレワークのための支出を次の事業年度が始まる前に検討しておいてもいいだろう。

 

 一方、高額な設備投資の場合は、取得した設備の種類ごとに決められた耐用年数に応じて減価償却する。初年度に損金にできる額は限られてしまうが、次の事業年度以降も一定額が損金になり、設備投資の効果で増える見込みの利益を圧縮することが可能となる。

 

 機械装置や器具備品などの設備を購入する際には、設備投資に対する税優遇を活用して負担を大幅に減らすことが可能だ。代表的なのが「中小企業経営強化税制」で、旧モデルと比較して生産性が年平均1%以上向上する設備や、投資収益率が年平均5%以上向上する設備を購入した場合に、購入費用の即時償却または10%の税額控除(資本金3千万円~1億円の中小企業は7%)を適用できる。コロナ禍の緊急経済対策でテレワーク導入のための設備投資も対象となり、負担を減らしやすくなっている。

 

 設備投資に対する優遇税制は、国税だけではなく地方税にも設けられている。一定期間内に設備を購入すると3年間の償却資産税が最大ゼロになる特例で、対象資産は労働生産性が年平均3%以上向上する機械装置(160万円以上)や、測定工具および検査工具と器具備品(30万円以上)、建物附属設備(60万円以上)となっている。今年中に設備を購入すれば来年から3年間の償却資産税を軽減できる。

 

消費税の課税方式に注意

 これらの税制を活用して高額な設備を購入する場合に注意が必要なのは、消費税の課税方式の選択だ。原則課税方式にした方が簡易課税方式よりも税負担が少なくて済むことが多いという点を押さえておかなければならない。

 

 簡易課税方式は、売上分の消費税に業種ごとに定められた仕入れ率を掛けて仕入れ税額を算出する方法で、消費税の納税額を計算する際に、実際負担した仕入消費税額を考慮に入れない。

 

 一方で原則課税方式は、売上分の消費税額から実際の仕入れ分の消費税額を引いて算出するので、高額な設備投資で仕入れ分の消費税額が多い事業年度は納税額を大きく減らすことができる。さらに仕入れ分が売上分を上回れば、還付を受けることも可能となる。そのため高額な設備を購入する場合には、簡易課税方式から原則課税方式に変更しておかなければ損をしてしまうことが多い。

 

 消費税の課税方式の切り替えは、原則として事業年度の開始前に税務署に届けなければならない。だがコロナ禍では、税制上の特例として、感染拡大防止のための設備導入など原則課税方式を選択する必要が生じたケースでは、事業年度が始まった後でも原則課税方式にすることが認められる。

 

 また昨年の消費税増税と軽減税率の導入に合わせ、税率が異なる取引を区分記載することが困難な事業者に限り、「2019年10月~20年9月」が含まれている事業年度は課税方式の事後選択が可能となっている。これらの特例の条件を満たせず簡易課税方式から切り替えることができない事業者は、今年度中に課税方式の切り替えのための手続きをしたうえで、次の事業年度に設備投資をするという経営判断もあるだろう。

 

 銀行は例年以上に融資に積極的になっているが、その方針が急に変わることも考えられる。借りやすくなっている今のうちにできるだけ資金を調達して、それを有効に投下する方法を検討したい。

(2020/10/29更新)