コロナ対策で税金を減らす

使える制度を再確認


 全世界を襲った新型コロナウイルスという災難によって、2020年は誰にとっても経験したことのない一年となってしまった。業績を落とした事業者があれば、その一方でたくましく収益を伸ばした事業者もあるだろう。どちらにせよ何らかの形で向き合わなければいけないのが税金だ。コロナ禍で受けた影響を個人や会社の節税につなげるテクニックを押さえておきたい。


 個人事業者の節税、あるいは企業の年度末の節税策としては、いかにまとまった経費を計上して所得から差し引ける損金を作り出すかが重要なポイントとなる。しかし中小事業者を直撃したコロナ禍にあっては、そもそも大きな黒字は出ておらず、まとまって支出できる手元資金もないというケースがほとんどだろう。そのため実行できる節税策がないと思いがちだが、大きな黒字が出ていなくても可能な節税方法は多くある。

 

 例えば、コロナ禍で赤字になったものの、前年度までは黒字だったという事業者は、前年度に納めた法人税の還付を受けられる「欠損金の繰戻還付」を適用できる。赤字の範囲内で、過去に納めた税金を取り戻すことができるわけだ。

 

 黒字と赤字を相殺する制度としては、赤字を翌年以降に繰り越せる「欠損金の繰越控除」もあるが、こちらは来期以降に業績が回復する見込みがあってこそ役立つ制度だ。いまだ終息の気配すらないコロナ禍で先行きが不透明な状況では、手元資金を厚くするという意味でも「繰戻還付」の活用を積極的に検討したい。

 

 同制度は原則として資本金1億円以下の中小事業者を対象としているが、コロナ禍にあっては緊急対策として、2022年1月までに終了する事業年度に限り、資本金1億円超10億円以下の法人も適用できるようになっている。

 

 また、コロナ禍で資金繰りが苦しくなっているのならば、納税猶予の特例の利用も検討したい。通常、納税猶予を利用する際には利息にあたる延滞税が付き、さらに猶予額に応じた担保も求められる。しかしコロナ禍で2020年2月以降の任意の月に収入が2割以上減少している事業者は、延滞税と担保のどちらも不要とする猶予特例が設けられている。もちろん猶予なので最終的には納めなければならないものの、苦しい時期に税負担をゼロにできることは経営にとって計り知れない意味を持つはずだ。

 

 国税庁によれば、猶予特例は20年5月からの5カ月間で約20万件、約7800億円適用されている。最も適用が多いのは消費税だという。納税猶予の特例は、21年2月1日までに納期限を迎える国税が対象だ。延長を求める声も多いが現時点では未定なので、猶予を利用したいなら期限を忘れないようにしたい。

 

繰戻し還付、報酬減額、在庫処分…

 その他、コロナ禍でダメージを受けた事業者ができる対策としては、減額した役員報酬の損金算入だ。通常、年度途中の報酬額の変更は損金算入の対象外となるが、新型コロナの影響で大幅に売上が悪化しているのであれば、変更前との差額もすべて損金に含めてよい。

 

 またコロナ禍で売り時を逃してしまい、今後も売れる見通しがない大量在庫も、値下販売や廃棄処分で損失をしっかり確定させたい。在庫を商品として抱えたままでは、税金を計算する上での損金にはできないので注意が必要だ。

 

 多くの事業者が業績を落としたなかで、コロナ禍を商機として大きな利益を生み出した事業者もあるだろう。それならば原則どおり、保険や共済の一括前払い、事業用資産の修繕など、支出を作って所得を減らす節税策が大きな効果を発揮する。

 

 そうした節税策のなかでも、機会があれば検討したいのが設備投資だ。生産性が旧モデルと比較して年平均1%以上向上する設備や、投資収益率が年平均5%以上向上する設備を購入した際には、「中小企業経営強化税制」を利用して、購入費用の即時償却または10%の税額控除(資本金3千万円~1億円の中小企業は7%)を適用できる。コロナ禍の緊急経済対策によってテレワーク導入のための設備投資も対象となっているので、経営者の多くは食指が動くのではないか。

 

 さらに、コロナ禍の特別融資によって、銀行からお金を借りやすい状況となっている。その内容は運転資金だけでなく、設備資金も対象となっていることが多い。コロナ禍によって設備資金を例年以上に調達できる事業者は、積極的な投資を行う好機といえるだろう。また苦しい状況の事業者も、運転資金に充てる額以上の資金が手元に残るのであれば、設備投資を来期の飛躍につなげる足がかりとしたいところだ。

 

 そのほか、10万円までの備品や消耗品は全額を損金にでき、青色申告をしている中小事業者なら30万円未満の減価償却資産を年間300万円まで全額経費にできる。こうした定番の節税手法も忘れずに駆使して負担減につなげたい。

 

 そして設備投資に絡んで、黒字の事業者も赤字の事業者も忘れないようにしたいのが、消費税の課税制度の選択だ。消費税は、全額しっかり計算する原則課税方式か、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を使う簡易課税方式を選ぶことができるが、どちらを選ぶかで税負担が大きく変わる可能性がある。業種によっては簡易課税のほうが得なことも多いが、高額な設備投資をした年に限っては、原則方式のほうが還付金を受け取れる可能性が高い。

 

 この選択は本来ならば事業年度の開始前に税務署に届けなければならず、また一度選んだ方式は数年変更することができない。しかし現在はコロナ禍の特例として、年度途中や1年後の変更が認められるようになっている。設備投資を考えているなら、原則方式への変更を忘れないようにしたい。

 

贈与の特例も使いたい

 ここまで事業者用の節税策を見てきたが、個人としてもチェックすべきテクニックはある。特に押さえておきたいのが、教育資金や結婚・出産・育児資金の一括贈与に認められた非課税特例だろう。これらの特例は、21年3月末が期限となっているからだ。

 

 教育資金の特例は、子や孫などの直系卑属に対する教育資金の一括贈与について、1人当たり1500万円まで贈与税を非課税にするものだ。これまでに約22万8千件が適用され、約1・7兆円が贈与されている人気の制度となっている。

 

 また結婚・出産・育児資金の特例は、最大1000万円までを非課税にするもので、利用件数は約3万件と教育資金に比べて少ないものの、19年には6790人が適用した。これらの特例については、21年度税制改正で延長することが検討されているものの、その際には金額の上限や適用要件などが厳格化される可能性が高い。現行の条件で利用できるのはあと数カ月となっているため、適用を考えているなら急ぎたいところだ。

 

 コロナ禍によって経営計画が破たんしてしまったとしても、来期からの飛躍につなげるために、今期の税負担を減らすことが大きな意味を持つ。使える節税策をしっかり使って、今期の決算を締めくくりたい。

(2020/12/30更新)