コロナで家賃滞納続出!?

賃貸オーナーから悲鳴


 新型コロナウイルスの流行で飲食業者などが大幅な客足減となっていることを受け、国土交通省はテナントのオーナーに対して家賃徴収を猶予するよう広く要請した。テナントやアパートなどの不動産経営は、中小事業者のオーソドックスな副業でもあり、コロナショックによる業績不振を家賃収入で補っているケースも多い。今後、家賃収入が絶たれてしまえば、オーナーは本業に加えて不動産経営でも〝出血〞を余儀なくされる恐れがある。


 赤羽一嘉国土交通相は会見で「(テナントが支払う)賃料が大変負担になっている」と指摘し、関連団体に対して、家賃の徴収を猶予するよう要請したことを明かした。国交省はホームページ上で、「飲食店をはじめとする事業者の中には、新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動を縮小し、入居するビル等の賃料の支払いが困難となる事案が生じている」として、「賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施を検討頂くよう、要請をしました」と、不動産協会、全国住宅産業協会、不動産流通経営協会、全国宅地建物取引業協会連合会、全日本不動産協会、日本ビルヂング協会連合会の関連6団体に対して要請を行ったことを報告した。

 

 この要請を受けて悲鳴を上げているのが、当の賃貸物件オーナーだ。

 

 「ただでさえコロナショックで商売にダメージを受けているのに、安定した副収入だった家賃収入までなくなるのであれば相当辛い。不動産からの収入のおかげで本業を持ちこたえているところもあるのに、今回の要請は本当にたまらない」

 

 小売業を営むかたわら、都内に数棟の商業ビルを所有する四十代の経営者はこう語る。

 

 業績が安定している事業者は、本業以外に副収入を得ていることが多い。過去に帝国データバンクが行った調査によれば、100年を超えて続く長寿企業の特徴として「売上高経常利益率」の高さが目立った。本業の収益を示す「売上高営業利益率」との差が平均で1・3ポイントほどあり、全企業平均の0・4ポイントとは大きな差を見せた。並の事業者であれば廃業に追い込まれるような不景気であっても、保有株式や土地・建物などの資産をうまく活用して、手広く収入の道を用意していることが長寿の秘けつといえるだろう。しかし今、副業の代表格でもある不動産経営の収入が、絶たれようとしている。

 

収入なくても支出は変わらず

 もちろん国交省が求める家賃の徴収猶予はあくまで要請であり、強制力を持つものではない。最終的な判断はそれぞれのオーナーに委ねられている。

 

 しかし国による要請が、実質的には強制に近い意味を持つことは、スポーツや文化イベントへの自粛要請の例を見れば明らかだ。そうした状況下で家賃の支払いを督促して、万が一にもSNSなどで拡散された日には、社会的ダメージを負う可能性もないとは言い切れない。

 

 また現実問題として、客足が半分以下に減った店子としては、家賃を支払おうにも「ない袖は振れない」という状況だ。実際に国交省の要請を待つまでもなく、前述のオーナーのもとには既に、店子からの賃料減額の打診が相次いでいるという。国交省の要請いかんにかかわらず、不動産オーナーとしては厳しい判断を迫られている。

 

 実際に賃料の徴収を猶予することになれば、オーナーにとってはプラスがゼロになるどころか、マイナスになることを意味する。物件を持っている限り、家賃収入がゼロでも、メンテナンスなどにかかる諸々の管理コストは必ず発生するからだ。また物件購入の際に融資を受けているケースでは、たとえ収入がゼロであっても月々の返済を滞らすわけにはいかない。コロナ禍が過ぎ去り、家賃が安定して入るようになるまで、オーナーはただ出血のみを強いられることになりかねない。

 

アパート経営にも影響不可避

 さらに恐ろしいのは、今回の国交省による要請は業務用のテナントのみを対象としているが、新型コロナウイルスによる外出自粛が長期化すれば、この流れが賃貸住宅にまで広がる可能性が極めて高いということだ。

 

 雇用環境や外出自粛の規模が異なるため単純には比較できないものの、3月22日に都市封鎖を開始した米ニューヨーク州では、アパートなどの賃貸契約をしている市民約540万人のうち4割が4月分の家賃を払えない状況になっていたという。2カ月先には6割が家賃支払い不能になるともいわれ、同州のクオモ知事はすぐに家賃支払いを90日間猶予する法案を打ち出した。しかし、入居者からは支払い義務の全面的な免除を求める声が高まっている。

 

 業務用のテナントとは異なり、住居は生活に最低限必要なものだ。そのため家賃の徴収猶予にかかる国の対応が、「要請」より一歩踏み込んだものとなる可能性は十分にある。実際にスペインでは、家賃滞納者に対する立ち退き要求を法律で禁止すると、3月末に決定している。

 

 もちろんオーナーとしても、店子を喜んで追い出したいというわけではない。次の店子を見つけるまでのコストや時間を考えれば、新型コロナウイルスの流行が速やかに終息して、店子が経済的な安定を取り戻し、家賃を支払い続けてくれることが最善なのは言うまでもない。

 

 しかし、コロナショックによって本業の経営が苦しい上に、副業である不動産経営でもマイナスが続くのであれば、店子より先にオーナーが音を上げてしまいかねない。政府には、店子だけでなく不動産オーナーも救済する施策を講じてもらいたい。

(2020/06/01更新)