クルマ買うなら増税前?増税後?

恒久減税の効果は限定的


 クルマにかかる税金、全部言えますか? 自動車の取得や保有にあたってはそれぞれ複数の税金が課され、しかもそれが毎年のように変わるという状況が続いている。今年10月に予定される消費税増税時にも大きく見直されることが決まっているが、それによって得をするのか損をするのかも一見しただけでは分からないという有り様だ。複雑怪奇なクルマの税金を再確認し、今後の購入のヒントとしたい。


 クルマの保有にかかる「自動車税」と「軽自動車税」。両税は年によって数日のズレはあるものの原則5月末が納付期限となっていて、それをオーバーしてしまうと延滞税(1000円未満は切り捨て)がかかってしまう。

 

 自動車税の延滞税の利率は、納付期限から1カ月は2・6%、それを過ぎると8・9%と決して低くない。複数台持っていれば、それだけ延滞税も高額になるので、忘れずに期限内に納付したいところだ。

 

 それにしても、クルマの税金はユーザーにとって本当に頭の痛い問題だ。購入時には取得税や消費税がかかり、保有に課される自動車税、軽自動車税、重量税に加え、走行時にはガソリンに揮発油税などがかかる。すべてカウントすると、なんと自動車ユーザーに課される税金は10にも及ぶ(表)

 

 しかも近年、自動車を巡る税金は毎年のように変化している。世界的な二酸化炭素排出規制の流れを受けて、2017年度にはエコカー減税の対象車種がそれまでの9割から8割へ、そして翌18年度には8割から7割へと縮減された。そして今年10月に予定される10%への消費税増税時には、1968年の導入以来、50年以上続いてきた自動車取得税が廃止され、それに代わる新税として「環境性能割」が導入される予定だ。

 

 しかし制度が大きく変わるのは分かっても、それによって自分がどのような影響を受けるのか非常に分かりづらいのが〝複雑怪奇〞なクルマ税制だ。これらの目まぐるしい制度改変は自動車ユーザーにとって増税なのか減税なのか。また今後購入を考えている人は、増税前に買ったほうが得なのか、それとも様々な景気対策が打ち出されている増税後に買った方がいいのか。もちろんケースによって異なる部分はあるものの、現行制度と今後の制度の変化を整理することで一定の「答え」が見えてくる。

 

エコカー減税の対象を絞り込み

 まず現状を整理すると、自動車税・軽自動車税はクルマの「保有」にかかる税金で、その排気量に応じて税額が変わる。例えば排気量3000㏄ の車は自家用車なら5万1千円、営業車なら1万5700円だ。

 

 自動車税については、最新の2019年度税制改正で、今年10月以降の新車登録を対象とした減税が決まっている。自動車業界長年の悲願とも言うべき恒久減税だが、減税幅は1000㏄ 以下で4500円引き下げ、2500㏄ 超なら一律1000円の引き下げと、どこまでユーザーの負担感の減少につながるかは微妙なところだ。

 

 この改正の重要なポイントは、対象となるのはあくまで10月以降に買った新車が対象であり、すでに持っているクルマについては、来年以降も減税前の税額が据え置きになる点だろう。つまり増税後に買ったクルマは、その後長く乗れば乗るほど、増税前に買ったクルマより得になっていくと言える。

 

 自動車税と軽自動車税には、環境性能に応じて税額を減免する「グリーン化特例」が設けられているが、注意したいのは、特例の対象となるのは新車だけだという点だ。グリーン化特例は、要件を満たす新車の登録時のみ、翌年の自動車税・軽自動車税を最大約75%軽減するという、あくまで購入に伴う単年限りの措置に過ぎない。保有2年目以降の自動車税に、環境性能に応じた税優遇は、今のところ存在しない。

 

 一方、自動車税と同じ「保有」にかかる自動車重量税には、環境性能に応じて税負担を減らす「エコカー減税」が設けられている。しかしこちらについては、自動車税の恒久減税の代替財源とすべく、19年度改正で対象車の絞り込みや軽減割合の縮小が行われた。最新の燃費基準を満たす車、つまりハイブリッドカーや電気自動車の税優遇は据え置きなので、一部の環境性能に極めて優れた車は優遇され、それ以外の多くの車は事実上の増税ということになる。こうした環境性能に優れた車のみを優遇する流れは、別の税目でも顕著だ。

 

 最も大きな変化を迎えるのは、「取得」時に一回限り課される自動車取得税だろう。同税は10月の消費税増税時に、税目そのものが廃止されることが決まっている。とはいえ単純な減税になるはずもなく、「環境性能割」という新たな税金が導入されることも併せて決定済みだ。

 

 今までは購入価格の3%が自動車取得税としてかかり、その上で「エコカー減税」として燃費に応じた減税措置が適用されていたが、増税後は、燃費に応じて取得価格の0〜3%を納める「環境性能割」に変わる。

 

 とはいえ環境性能に優れた車ほど税金が安くなるという仕組みは変わらないわけで、新税というよりは改組といったほうが正確かもしれない。そして自動車重量税の条件絞り込みと同様に、環境性能割でも現状より税金が安くなるのはハイブリッドカーや電気自動車に限られる。いわゆる「次世代車」以外は、基本的に増税になる仕組みと考えていい。

 

 なお環境性能割については、増税後1年間に限り、税率を1%分引き下げて0〜2%にする特例も盛り込まれている。増税後の経済の落ち込みを緩和するための景気対策というわけだ。この軽減措置は自家用車のみを対象としていることに気を付けたい。

 

駆け込み需要で売り手市場に

 ここまで税制改正などによる自動車各税への影響を見てきたが、単に税額という面だけでいえば、最も影響が大きいのは他ならぬ消費税だろう。政府は、増税による景気落ち込みへの対策として、キャッシュレス決済に対して最大5%を還元するポイント制度を実施するが、この破格の制度の対象から自動車は除外されている。自動車税の恒久減税などで特別の手当てをされているためというのがその理由だ。

 

 そうなると1000万円の車を買うとして、増税前に買えば消費税80万円で済むところが増税後には100万円と、20万円の差が出る。当たり前の話だが、高級車であれば負担はさらに増す。

 

 もし買おうとしている車がエコカー減税やグリーン化特例の恩恵をフルに受けられる次世代車であれば、自動車税の恒久減税を踏まえ、消費税増税後に買ったほうが維持費の負担は少ないはずだ。しかし消費税の負担増を考慮して、そのマイナス分を取り返せるのが何年後かと考えた場合には、増税後の購入のほうが得とは単純に言えないだろう。

 

 とはいえ車の値段はそこまで単純でもないのが難しいところで、過去の増税時もそうであったように、やはり今回も増税前には駆け込みで新車を買う人が増えるものと考えられる。売り手市場となれば、ディーラー側としても苦労せずに売れるため、通常よりも値引きに応じてくれないということも考えられる。

 

 逆に増税後には需要の大きな落ち込みが予想される。そうなるとディーラーが普段以上に様々な割引やサービスを付加してくれ、結果的に増税による負担増を踏まえても得をするかもしれない。ここまでくるとディーラーによる対応の差や交渉時の駆け引きなども絡んでくるため、状況をうまく見定める必要があるとしか言えない。

 

 一方、車を買うにあたって外せない各種の「車載用品」については、増税後が得と言えそうだ。前述のとおり、自動車は個別に景気対策が施されるため、政府が用意するポイント還元の対象とはならない。しかしドライブレコーダー、カーナビ、車載用の空気清浄器などはポイント還元の対象となる。

 

 カードで支払えば増税分を超える還元を受けられるため、車そのものは増税前に買っておいて、増税後に改めて車載用品をそろえるといった〝二段構え〞の作戦も有効だろう。最近ではあおり運転などが社会問題化していることもあり、リスクマネジメントの観点からもドライブレコーダーを搭載するのが必須となりつつある。うまくポイント還元制度を活用して備えたいところだ。

 

 クルマを巡る税制を見てきて、はっきりと分かるのは、税金面で優遇されているのは電気自動車やハイブリッドカーといった、いわゆる次世代車だということだ。グリーン化特例やエコカー減税の基準が年々厳しくなるなかで次世代車の優遇はゆるぎなく、これらの車種を選べば税金面での負担を大きく減らすことができるのは間違いない。

 

 しかし、こうした状況もあと何年続くかは分からない。与党税制調査会は昨年、クルマ税制の見直しを巡る議論のなかで、走行距離に応じて税金を課す「走行税」の検討を始めた。

 

 エコカーを買う人が増えて自動車関連税の税収が先細りになっていくことに加え、車を自分で持たずレンタカーやカーシェアで済ませる若年層が増えていることを理由に、与党税制改正大綱は、「保有から利用への変化等の自動車を取り巻く環境変化の動向」を踏まえ「財源を安定的に確保していく」ことを今後の検討課題とした。近い将来、車を保有しなくても走行税などの自動車関連の税金が課される時代がやってくる可能性は高い。

 

 自動車諸税で最も早い1950年にスタートした自動車税は、一部の人のみが持つ「ぜいたく品」への課税という意味合いを強く帯びていた。しかし時代は変わり、今ではぜいたく品どころか、地方在住のマイカー層にとっては生活を維持するための最低必需品になっている。税収を維持するためだけに幾重もの過重な税金をかけ続けるのは、根本的にいびつな状態だと言わざるを得ない。

(2019/07/03更新)