どこまでなら経費で落とせる?

私用と社用の境界線

税務署を納得させる証拠をいかに残すか


 会社名義のクルマや別荘、クルーザーは、税務署に「社長個人のもの」との疑いをもたれると、費用を損金にできなくなることがある。経費で落とすことの正当性を税務署に主張するには、事業で使っている証拠を確実に残しておくことが肝要だ。社長に関する支出を経費で落とすための実務上のテクニックや注意点を確認しておきたい。


 社長が経営とプライベートを切り離さず一年中会社のことを考えているとしても、税務上ではきっちり公私を分けて処理しなければならない。

 

 例えば社用車であれば、本来は減価償却資産として購入費を一定期間で経費にでき、さらに会社が支払うガソリン代、保険料、車検代、メンテナンス代、高速道路利用料も経費として損金になるが、社長が主にプライベートで使っていると税務署に判断されると、社長への臨時の役員給与として所得課税され、会社は支払い分を損金にできなくなる。

 

 会社の経費にするための大原則は「ビジネスに使っている」ということについて税務署に疑いを抱かせないことだ。それでも疑われてしまったなら、事業で使っていた証拠を見せて正当性を主張すればよい。

 

 国税不服審判所の裁決を紐解くと、事業に使っている証拠の有無を国税当局が重要視している実態が明確に浮かび上がる。

 

会社の施設であることを明確に

 法人の代表者がマンションの備品を会社に購入させて経費に計上したところ、代表者が給与課税されたケースがある。

 

 法人の代表者Aは、法人からマンションの一室を借り、低額の賃貸料を支払っていた。その後、法人名義で家具やカーテン、食器を購入。費用を経費にしたが、Aに経済的利益があったと国税当局にみなされ、「事業活動に使っている」という主張が否認された。

 

 国税当局が事業性を認めなかった主な理由は、①住民登録や水道光熱費の支払いをしていたのはAだったこと、②家の鍵はAと、法人理事でもある息子だけが管理し、ほかの法人関係者は自由に出入りできなかったこと、③法人のパンフレットやホームページに法人施設としてマンションが紹介されていなかったこと、④法人が主張する理事会や役員会の開催の証拠がなかったこと――などだった。

 

 つまり、仮にこの法人がマンションを法人名義で登録し、Aと息子以外の法人関係者も自由に使えるような「利用規程」を定め、パンフレットやホームページで施設を紹介し、理事会や役員会の議事録を残しておけば、国税の判断が違ったものになったということだ。

 

 他の資産に置き換えて考えても同様のことが言える。例えばクルーザーや別荘を取引先の接待や従業員の慰安を目的に会社が持つことがあるが、社長がプライベートで購入したとみなされてしまうと、維持費用などの関連支出は社長への給与や貸付金となり課税対象になることがある。

 

 実際に社長や親族以外の人も事業上で利用しているなら、利用規程を作成したうえでホームページでも施設を紹介し、利用実績報告書の記載を徹底することなどによって税務署に疑問を抱かせないようにする必要がある。

 

高級車でも事業用なら経費に

 社用車でも同様で、例えば車庫証明の際に保管場所を社長宅にすると、税務署は「社長個人のクルマではないか」と不審を抱くおそれがある。他にも事業性の有無についてあらぬ疑いを掛けられるリスクがあるのは、「社員数が少ないのに社用車の保有台数が多い」、「嗜好性の高い改造をしている」、「頻繁に買い替えている」といった状況だ。また、社長車の定番とされるメルセデス・ベンツであっても2ドアのスポーツタイプは嗜好性が高いため経費にできないと言われることが多い。

 

 しかし、高級車であろうとも、会社で事業用として使っている証拠があるのなら、堂々と経費にして問題ない。事業用であることを証明するには特に「運転日報」を残しておきたいところだが、注意しなければならないのは記載内容と走行距離メーターの数字にズレが出ていないかという点だ。

 

 プライベートでもクルマを使うことがあるなら、後から税務署に突っ込みを入れられないようにしたい。社用車であることを証明するためとはいえ、通常はフェラーリやベントレーの車体に印字することはまずないが、車種によっては社名をペイントすることによって事業で使っていることを示す方法もある。

 

 また、飲食費も社長個人の支出だと税務署に判断された場合、経費として落とせないが、領収書とともに、仕事に関係する同席者がいた事実を残しておけば損金化は可能だ。たとえキャバクラやスナックなどの色っぽいお店でも、本当に仕事に必要な支出であることを説明できれば経費で落とすことは可能だ。

 

 調査官を務めたこともある国税OB税理士は、「事業に使っているか否かのギリギリのラインだと税務署にとっても事実認定が難しく、社長の言い分に一応の筋が通っていれば基本的に深掘りされない。調査の現場では、口がたつ経営者と、自信なさげに説明する経営者とでは、調査官が下す結果が異なることもある」と、説明の仕方次第で経費にできることもあると語ってくれた。事業に使っている証拠をきちんと残し、堂々と経費性を主張できるようにしておきたい。

(2018/03/28更新)