がんと税金

有名人の闘病報道で気になる


 舌がんの手術を受けて闘病中の堀ちえみさんがこのほど、ステージ1の食道がんであることをブログで公表した。厚生労働省によると、生涯にがんにかかる可能性は男性で2人に1人、女性で3人に1人とされ、誰もが自身の問題として向き合わなければならない。がんになると身体の心配はもちろんのこと、金銭面の不安も出てくる。少しでも金銭面の負担を和らげるには税金のことを知っておく必要がある。誰にとっても無関係でいられないがんに関連する税務をまとめた。


5万円以下の見舞金には課税されない

 堀ちえみさんは4月16日付のブログで、食道がんの内視鏡手術が無事終わったことを報告した。昼過ぎから1時間程度の手術だったという。術後の経過を見ながら、1週間ほどで退院する予定だと書いた。

 

 堀さんは今年2月に舌がんの手術を受けている。その際には見舞客として、堀さんの活動をバックアップしてきた松竹芸能の担当者や、ドラマ「スチュワーデス物語」で日本航空の客室乗務員訓練生を演じた縁から、日本航空の社員らが訪れたという。さらにジャニーズ事務所の中居正広さんから見舞いの品が届けられたこともブログで報告している。

 

 見舞いに関する税務を見ていくと、入院している患者が会社などから受け取る見舞金や見舞品には基本的に所得税や贈与税が課税されない。ただし、その金額が税務署に「社会通念上相当な金額」を超えていると判断されると、給与所得などとして課税されてしまうことがある。

 

 課税と非課税の境い目は必ずしも明確ではないが、5万円が判断基準と言われる。これは2002年の国税不服審判所の判断が基になっているもので、請求人の類似法人の見舞金支払い規定や実際の支払い状況を審判所が確認した結果、見舞金を5万円としているところが多かったためだ。その裁決を基に、5万円以内の見舞金は、福利厚生費として会社の損金にでき、また受け取る個人も給与課税されない。

 

保険料は半額が損金に

 厚生労働省によると、2018年のがんの罹患数は101万人、がんを原因とした死亡数は38万人で、いずれも30年前の2倍以上となっている。男性の2人に1人、女性の3人に1人ががんに罹患するなかで、がんと診断された後の金銭面の負担をカバーする「がん保険」に加入する人が増加。2017年度は2446万件で、5年前(12年度)の2054万件と比べると2割増しにもなる(生命保険協会調べ)。

 

 保険料の税務を見ていくと、支払うのが個人か法人かによって扱いが異なる。まず個人事業主は、自分を被保険者とした保険料を事業の経費とすることはできず、個人負担となる。堀さんは昨年まで松竹芸能に所属していたが、今年からは同社の所属から外れ、同社とは「業務提携」の形で関与。堀さん自身は個人事業主として活動していたと見られる。そのため、仮に堀さんが今年からがん保険に加入していたとすると、その保険料を経費に計上することはできないということになる。

 

 ただし、全ての納税者に認められた生命保険料控除の対象となるため、最大で4万円まで所得控除することが可能だ。また、個人事業であっても従業員のために加入する保険の保険料は福利厚生費や給与として経費化が認められる。

 

 一方、法人が加入するがん保険の保険料は経費として損金にすることが可能だ。ただし損金にできる範囲は支払い保険料の2分の1となっている。

 

 2011年までは全額を損金にできたため、多額の利益が出ている時に加入して保険料分の金額の黒字を圧縮することが可能だった。途中解約して法人が返戻金を受け取る際には益金が発生して課税対象になるものの、受け取りのタイミングを退職金の支払いなどの損金がある時や赤字が出た時に合わせることで節税できた。

 

 しかし12年以降、保険料の損金化には制限が掛けられ、解約返戻金があるがん保険の保険料の損金算入額は支払額の2分の1にまで引き下げられている。税負担を軽くしながら解約返戻金分のお金を積み立てるという目的で加入するメリットは薄れていることになる。

 

 なお保険契約者が個人事業主・会社のいずれであっても、がんになった従業員が受け取る保険金は基本的に非課税だ。一方、従業員の代わりに会社や事業主が受け取る契約だと、収入(益金)として課税対象になる。

 

医療費控除可能な禁煙治療

 国立がん研究センターによると、がんに羅患した人のうち、男性の30%、女性の5%は喫煙が発症の原因だったという。そのため同センターは、がんの予防に最も効果的な方法として、「煙草を吸わないこと」を挙げている。

 

 しかし予防のためとはいえ、喫煙者にとって禁煙は簡単なことではない。そのような人に利用されているのが禁煙治療だ。禁煙のための治療は以前まで保険の適用外だったが、2006年以降は一定の基準を満たせば保険適用が認められるようになり、利用者が急増している。

 

 禁煙治療の費用は、10万円を超えた部分を所得から控除できる「医療費控除」の対象となる。あくまでも医師の指導の下で実施する必要があり、ニコチンガムなどの禁煙補助薬を自分で購入した際の費用は医療費控除の対象とならない。

 

 ただし、一定の市販薬の購入費のうち1万2千円を超えた部分を所得控除できる新医療費控除制度「セルフメディケーション税制」の対象になる可能性はある。例えば禁煙補助薬の「ニコレット」や「ニコチネル」は同税制の対象だ。

 

 堀さんは芸能活動の一時休止を余儀なくされているが、将来的に芸能界への復帰を期待する声は多い。堀さんに限らず、社長や社員ががんで仕事を休むことになれば、会社にとって大きな損失だ。会社は社員が税金に関する不安を感じないようアドバイスすることも含め、復帰に向けて全面的にサポートしていきたい。

(2019/05/28更新)