かぼちゃの馬車のカラクリ

スルガ銀行〝偽装契約〞黙認

営業が融資審査部を恫喝


 東京地裁から破産手続き開始の決定を受けたスマートデイズ(東京・中央区)。首都圏を中心に女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営し、「30年一括借り上げ」などをうたい文句に不動産オーナーを集めて成長したが、入居者の募集が追いつかず賃料の支払いを突然中止。結果的に1000億円の借金漬けとなった同社の〝カラクリ〟を調べてみた。


 スマートデイズは2012年に創業し、14年から「かぼちゃの馬車」をスタート。同社が物件を一括借り上げする仕組みで、オーナーは自己資金ゼロで始められるというセールストークを使い、物件数は一時800棟、1万室に上った。

 

 しかし実際には、物件数が急増する一方で入居者は思うほどに集まらず、平均入居率は40%にとどまっていたようだ。黒字化の見込みが立たないことから、今年1月にオーナーに対して一方的に賃料の支払い停止を通告。当然オーナーからの猛反発を呼び、一部オーナーから損害賠償請求訴訟が提起され、社会的な問題ともなるなか、民事再生法の適用を申請していた。

 

 かぼちゃの馬車に限らず、近年では「サブリースで借り上げるので入居者がいなくても黒字が保証される」という売り文句のアパート建設が増えている。そのメインターゲットのひとつは、まとまった資産を持ち、将来に起きる相続での税負担を減らしたいと考える、高齢者の富裕層だ。

 

 確かに相続税対策としてのアパート建設は、うまくいけば税負担の軽減に大きな効果があることは確かだが、不動産経営そのものが失敗すると、逆に多額の借金を次世代に回すことになってしまう。その点、入居者がいなくても黒字になるというサブリース賃貸はリスクがないように思えるが、そんなにうまい話はないのが現実だ。

 

 多くのサブリース契約では数年ごとの賃料見直しが盛り込まれていて、入居率の低いアパート、つまり家賃保証をしてほしい物件ほど、実際には支払われる賃料が低くなっていくことになる。当初想定していたような利回りは、多くのサブリース物件では最初の数年持てばよいというのが実状だろう。

 

「5年の家賃保証」どころか賃料支払全面カット

 かぼちゃの馬車では、さらに信じがたい手のひら返しが起きている。当初スマートデイズがオーナーに提示した契約書では、「5年後に両者協議のもと賃料を見直す可能性がある」という条項が含まれていた。前述したような賃料見直し規定だが、これが逆に、「少なくとも5年は賃料を受け取れ、その後下がるとしても少しずつだろう」とオーナーを安心させてしまう理由となってしまった。

 

 現実には、商売の常識として「絶対」であるはずの契約書をスマートデイズはいとも簡単にほごにし、5年を待たずに賃料支払いを全面カットするという方針に転換することとなった。ない袖は振れないとはいえ、リスクが少ない判断をしたと考えていたオーナーにとっては、とうてい許せる話ではないだろう。

 

 かぼちゃの馬車に限らず、賃貸経営の難しさに目をつぶって高齢富裕層にアパートを建てさせ、結果的にオーナーが多額の借金を背負うというトラブルが、全国で問題となっている。オーナー自身の判断の甘さ、巧みな営業トークで投資家をその気にさせる不動産業者などの問題もあるが、こうしたトラブルが絶えないもう一つの理由として、賃貸不動産として成功の見込みが薄いにもかかわらず、融資をためらわない金融機関の存在がある。

 

貸す銀行の姿勢にも大きな問題が

 かぼちゃの馬車が社会的な問題となった影響で、スマートデイズの関わる案件に多額の融資を行ってきたとされるスルガ銀行(本店=静岡県沼津市)は、外部の弁護士による危機管理委員会を発足し、調査結果を発表した。それによれば同銀行がシェアハウス事業に融資した額は、今年3月末の時点で2000億円超、そのうち半分程がかぼちゃの馬車だという。

 

 調査報告書では、かぼちゃの馬車に関する問題が多数指摘されていて、①スマートデイズがシェアハウス用物件を別の業者から買い上げる際に多額の利ザヤが発生し、顧客は元の業者から買うより相当な割高で物件を買わされていたこと、②融資を引き出すためにオーナーの通帳を偽造、「銀行提出用」とされる偽の売買契約書を作成し、しかもその二重契約をスルガ銀行側も黙認していたこと、③銀行内で融資審査部に対して営業部が優位に立ち、融資に難色を示す審査部担当者を恫喝していたこと――など、信じられない実態の数々が報告されている。

 

 報告書の内容を受けて同行が出した声明文では「二重契約の存在については、相当数の社員が、その可能性を認識していた」と認めているのだから、両者の思惑にもてあそばれた被害者はオーナーただ一人に他ならない。

 

 不動産投資は、うまくやれば資産形成と節税を両立できる手法であることは確かだ。だが他の全ての商売と同様に、安定した経営は難しく、失敗の責任を誰も取ってくれないことを再認識すべきだろう。

(2018/07/06更新)