【過労死ライン】(2019年5月号)


ドイツ全土の金属・電機産業労働者約390万人で組織する「IGメタル」は世界最大規模の労働組合。昨年の労使交渉では、それまで35時間だった週の労働時間を28時間に短縮する権利を勝ち取った。週5日勤務だとすると1日の労働時間は5時間36分、年間でも1500時間以下となる計算だ▼厚労省は、地域医療を担う特定の病院の医師らについて、特例として残業時間の上限を年1860時間まで認めることを決めた。つまり月155時間の残業を認めたわけだ。過労死ラインとされている残業時間は月80時間なので、ほぼ倍となる。日本の医師はIGメタル組合員の正規労働時間よりもはるかに長く残業することになる▼この残業時間が認められる医療機関は全国で1500カ所程度となる見通し。技能を磨きたい研修医らも本人が希望すれば適用対象になるという。訓練しながら病院の戦力として働く研修医は多く、地域医療を支える主力でもある▼ドクターは医師法の「応召義務」によって、正当な理由がなければ診療を拒めない。しかし、それが医師に際限のない長時間労働を強いる結果になっていると指摘する声もある。患者の命を守る医師。その医師の命は誰が守るのか。過労死ラインの倍をOKとした厚労省に問い質したい。