【新・姥捨て山】(2015年7月号)


2008年4月にスタートした「後期高齢者医療制度」は〝現代の姥捨て山〟と批判された。ならばこれは〝新・姥捨て山〟といったところか。日本創生会議(増田寛也座長=元総務大臣、前岩手県知事)が、東京圏に暮らす高齢者の地方移住を促す提言をまとめた▼東京と周辺3県では高齢化に拍車がかかり、2025年には介護施設が13万人分不足する見込みだという。このため、医療・介護施設に余力のある全国41の地域への移住を促すという内容だ。政府もこの提言を歓迎しているようで、官房長官が「人口減少問題の改善や消費需要の喚起、雇用の維持・創出につながる」などと、もろ手を挙げて賛同している▼ちょっと待ってほしい。そもそも国は、高齢者に充実した医療・介護サービスを提供する「地域包括ケアシステム」を提唱してきたはずだ。住みなれた地元が中心となって取り組んできたこの政策と、「元気なうちによそへ出て行け」という今回の提言は矛盾する。日本版CCRC(退職者共同体)にしても、〝アクティブシニア〟に「元気なうちの移住」をすすめるものだ▼若者が去り、人口減少に悩む地方自治体からは賛同する声も上がっている。しかし医療費が増える分、結果として財政負担は増す。医業経営者としても、こうした流れに乗るべきか否か、慎重に判断したいところだ。