【ルビコン川】(2018年8月号)


ジュリアス・シーザーは紀元前45年に新しい暦を採用。7月の名称を自身の家門名にちなんで「ジュライ」と命名した。古典ラテン語での彼の名は「ガイウス・ユリウス・カエサル」。ユリウス暦はグレゴリオ暦に改暦される1582年まで続いた▼8月の英語名「オーガスト」は、ローマ皇帝アウグストゥスの名に由来するという。シーザーはアウグストゥスの養父だから、2代揃って7月と8月にその名を残しているわけだ▼権力者というのは暦をいじりたがる生き物なのかもしれない。せっかく手に入れた権力だから、持っているうちにカレンダーを「変更できる力」を誇示したくなるのだろう。新元号の選定や、天皇の退位・即位に伴う休日の制定、東京五輪開催時の連休の設定などは、そのチカラを行使できるまたとない機会だといえる▼カジノ法をめぐって行使されたチカラも相当なもの。カジノはこの国の「成長戦略の目玉」だそうだ。ローマ皇帝が剣闘士の生死を賭けの対象として、市民がそれに熱狂したように、21世紀の日本でも国が賭博をお膳立てしてくれたわけだ▼誰かが損することを前提として成り立つギャンブルで「成長」するのは、いったい誰なのだろうか。賽は投げられてしまったが、ルビコン川を渡る必要はない。